『卵の緒』 / 瀬尾まいこ
★ × 99
内容紹介
僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。
それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作。
家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7's blood」)。優しい気持ちになれる感動の作品集。
恐らく人生で7回くらい読んで、もうストーリーや人物像はソラで言える程慣れたのに、読む度に救われる気がする、墓場まで持っていきたい小説です。
(いや、冗談じゃなく割と本気で…)
基本的に心が荒んだ時に読んでいるので、ちょっと引かれるかもしれませんが、この本をカバンに入れるだけでちょっと心が洗われるんです。
…いや、前置きは気持ち悪いのでレビューします。
2編から成る薄い小説。
どちらもテーマは「血のつながりとは何か」。
表題作「卵の緒」は血の繋がっていない親子の物語。
主人公は思春期を迎え、本当の親子なら臍の緒があるハズだと母親に詰め寄る。
血の繋がりの無い母親は、この問いに対してある言葉を選ぶ。
このシーンは読む度に震える程感動してしまいます。
この感動のベクトルは喜びであり、その時の自分にとっては強大だと感じていた悩みや不安が、この頁で蒸発して消えるような感覚がある。
ある種パブロフの犬かもしれません。
けれど文字という簡易なツールで、ここまで勇気付けてくれる作品は他にありません。
別のシーンでは、主人公と母親の出会いについて語られますが、ここでの母親の言葉でも、喉の奥を絞められるような感覚を味わいます。
血の繋がりの有無って一体何なのか。
例えば一人の人間に多大な影響を与えたとして、与えた側の人間は本当の親じゃないとして、それが本当の親である場合と何が異なるのか。
その辺りの常識的な親子の在り方に、瀬尾さんは極力優しく、けれどかなり強烈なカウンターパンチを放っています。
後半の短編「7's blood」もそう。
こちらは血の繋がりの無い姉と弟の話。
姉、弟、姉の母親、姉の彼氏、とにかく全員が涙が出る程優しくて強い。
そしてこちらは、かなり悲しい物語。
姉、弟はそれぞれに問題を抱え、けれど人とは違う自分のその不都合を嘆くことなく、「ベタ」な日常を澄んだ目で生きていく。
悲しみの裏返しのような表現って「無い無い、こんな強い人」なんて辟易すること多々ありですが、本作では感情移入が過ぎてどうしても悲しくなってしまう。
弟が姉のために買ったケーキを夜中に食べるシーン、そして弟が家を去るシーンは毎回胸が詰まります。 (思い出すだけで目が潤みます笑)
瀬尾さんは悲しみや苦しみを、あまり直接的に顕著に表現しない書き方をする天才だと思いますが、こればっかりはどうしても泣きそうになってしまう。
本の持つ力を感じさせてくれる小説という意味で、これ以上の作品は未だ出会ったことがありません。
大好きな友達と飲みに行ったり、バドミントンしたり、格闘技観たり、買い物に行ったり、、日常に色を付ける楽しみは短くない人生の中でいくつか見つけましたが、
「本を読む」ことで色濃くなることをここまで教えてくれたのは本作が初めてです。
勝手に人生の小説ランキングをつけるとするなら、「幸福な食卓」「戸村飯店青春100連発」「優しい音楽」「強運の持ち主」などバンバンランクインする程瀬尾まいこ作品はクオリティが高いですが 、その中でも個人的に突出しているのがコレ。
26年の人生で最も好きな小説です。