『迷宮』 / 中村文則
★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
密室状態の家で両親と兄が殺され、小学生だった彼女だけが生き残ったその事件は「僕」が12歳の時に起きた。「僕」は事件のことを調べてゆく。「折鶴事件」と呼ばれる事件の現場の写真を見る。そして…。巧みな謎解きを組み込み、エンタテインメントをのみ込む、渾身の長編。
デビューから11作目の作品です。
「夜」や「冬」が似合う著者の小説を、文字通り冬の夜、帰りの電車で貪るように読みました。
面白かった…と表現するのは少し感覚とズレがありますが、一言でいうならばめちゃめちゃ素晴らしかった!拙い言葉でレビューします。
一組の男女に纏わる話。
主人公である新見は、幼い頃から自分のうちに潜む悪の権化を「R」と命名し、対話していた。(なんというか、ガリガリの魔神ブウのような)
成長に伴いRは姿を消したが、彼の中には常に悪の影が落ち、直近の目標である司法試験ももはやどうでもよく、全てに対し低空飛行。
そんなとき同窓会で出会った一人の女性に惹かれ、親密な関係となるが、のちに彼女が「迷宮事件」と呼ばれた一家殺人の未解決事件の唯一の遺族であることを知り…という筋です。
『遮光』では、死んだ彼女の指を瓶に詰め持ち歩くという異常者を題材にしており、本作では己の悪の部分を身体から離合させ、対話するという同じく異常者を題材にしています。
これらは一見我々を蚊帳の外に置き、自分とは一切関係ない檻の中の異常者を見ているような物語構成ですが、
中村さんの一番すごいのが、読んでいると徐々に自分も檻の中に入れられ、主人公と一緒に苦しみ出してしまう感覚を得るところ、
『あなたの中の異常心理』であったように、彼らの異常性を自分のなかにも見出だしてしまうところだと思います。
本作で言えば、悪の部分を分離して対話するという天使と悪魔的性質を、程度の違いこそあれ少なからず「俺もこんなことあるなぁ」と肌で理解できてしまう。
そういったリアリティこそが中村さんの魅力であり怖いところだなぁと痛感しました。
また、本作で私が最も驚いたのが、物語の後半、完全にミステリー小説と化す点。
前述の未解決事件の真相が終盤に明らかになっていくのですが、こういった分かりやすいエンターテイメント性を中村さんの小説で感じたのは初めてでした。
どちらかと言えば頁を捲るのが怖い、けれど追いたいという文学寄りの著者と認識していましたが、これは捲る手が止まらず没頭しました。
オチもしっかりあって、新たな中村作品に触れることができました。ふーう良かったぜ!