『フェルマーの最終定理』 / Simon Lehna Singh
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17世紀、ひとりの数学者が謎に満ちた言葉を残した。「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」以後、あまりにも有名になったこの数学界最大の超難問「フェルマーの最終定理」への挑戦が始まったが―。天才数学者ワイルズの完全証明に至る波乱のドラマを軸に、3世紀に及ぶ数学者たちの苦闘を描く、感動の数学ノンフィクション。
内容(「BOOK」データベースより)
超~~~~面白かった!!!!!毎日電車で大興奮でした。
以前『生物と無生物のあいだ』のレビューで、分子生物学という馴染みの無い分野でも、著者福岡伸一さん程の書き手を介せば私のような一般庶民にまで届くということに感動した、と書きましたが、
数学、
この義務教育から練り込まれ、一見馴染みの深いようで実は氷山の一角程も捉え切れていない馴染みの薄い分野
これをパブリックに興味深く、且つ学術的な内容も兼ねた文章で表し切ったという意味で、著者サイモン・シンさんには惜しみない拍手を与えたい!!!!
フェルマーの最終定理という、日本では小川洋子さんの『博士の愛した数式』などで取り上げられ名前だけは知っていたこの歴史に残る難問に、何世紀にも渡り幾人の数学者が臨み、打ち砕かれ、最終的にアンドリュー・ワイルズによって白日の下に証明されるまでを描いたノンフィクション。
この骨子だけでもう心踊りますが、最も私を興奮させたのは、物語の主軸の脇に登場する、数多くの「数学雑学」。例えば以下
”31 331 3,331 33,331 333,331 3,333,331 33,333,331
これらの数は全て素数であるが
333,333,331
は素数ではない。(=17 × 19,607,843)”
”x^4 + y^4 + z^4 = ω^4(x^y : xのy乗)
を満たす自然数の組は存在しないとオイラーは予想したが、この主張から200年後
(2,682,440)^4 + (15,365,639)^4 + (18,796,760)^4 = (20,615,673)^4
が成り立つことが示された。”
"スキュース数とは、「なんらかの意味を持つ数学史上最大の数」であり、
10^10^34(10の10乗の34乗)
を指す。(「過大評価素数予想」という問題にてスキュース数が登場する)"
…どうですか!?血湧き肉踊りません!?
昔、億や兆を越える単位を覚えたり、電卓で2×2×2×…を繰り返した時の猛スピードで桁が繰り上がる様子にテンション上がったりしましたが、長らく忘れていたこれら「本能的な発奮」を、本書を読んでいるときに何度も思い出しました。
勿論、基本的に数は好きなので、『すばらしい数学者たち』を読んだ時なんかでも、「よくこんなことが思いつくなー」と感心した覚えはありますが、本書が何より優れているのは、著者サイモンさん、そして訳者青木薫さんが深く数学を理解していて、そして文章がめちゃめちゃ面白いところ。
それが私の原記憶をよみがえらせてくれたんです!(大げさ)
物語がノンフィクションということが、より一層面白さを引き立てている。
特に現在の「群論」の中核を成す概念を世に知らしめたガロアという数学者が萌える!!
彼は己の死が明日までだと知り、前日の夜に自ら考え出したいくつかの定理を書き残そうとしました。
手記内の複雑な数式に隠れるように、ページの余白には「Je n'ai pas le temps(時間がない!)」といった走り書きが隠されていたそうで、実際の手紙が本書に出てきます。
これがノンフィクション!?
彼らの学問に対する情熱や執念や羨望や集中があまりにギラギラで眩しすぎて、読んでいて何度も「俺の仕事の悩み、それはなんてちっぽけで楽な問題なんだろう!」と気が晴れました笑。
歴史上の人物から学ぶことは多い。
それは勿論わかっているけど、「いやぁ、そんな昔のことを論じられたって、現代とは時代が違うぜ。未来を見ようぜ。」なんて腐った食わず嫌いで、偉人伝や歴史ものをどうしても避けて通ってきています。
けれど本書を読んで甘さを痛感させられました。
歴史上の人物はやっぱ相当キテる!!!
願わくばサイモンさんのような文章家が多くの分野に存在して、それぞれがそれぞれの分野でキョーレツに面白い本を書き上げてほしいと願う…他力本願