『ノーライフキング』 / いとうせいこう
★ × 83
内容(「BOOK」データベースより)
小学生の間で空前のブームとなっているゲームソフト「ライフキング」。ある日、そのソフトを巡る不思議な噂が子供たちの情報網を流れ始めた。呪われた世界を救うため、学校で、塾で、子供たちの戦いが始まる。そして最後に彼らが見た「キング」の正体とは?発表当時よりセンセーショナルな話題を呼んだ、著者圧倒的代表作。
『想像ラジオ』で私のみぞおちに衝撃を残した作家・いとうせいこうさんの25年前の作品です。
「ライフキング」という大人気ゲームソフトをめぐるこどもたちの物語。
このゲームには、世に出ていないライフキングの5番目のバージョン・通称ノーライフキングがあるという噂が出回る。
子どもたちは虚構に踊らされ、奇妙な行動を取るようになるーー。
といったあらすじは、こう書くとよくある青少年文学のように思えますが、その内容は極めて難解でした。
小説の前半は、ライフキングに没入する子どもたちを描写するシーンが続き、この辺りを読むと誰しも、自らの記憶を呼び起こされると思います。
ちなみに私は小学生の頃ズブズブにハマった「遊戯王」や「ハイパーヨーヨー」を思い出しました。
あの年代の頃って、対象は何にせよ1つのものに傾ける情熱は狂気的であり、この世界はすべてこれらで成り立っているのだ、と信じてやまない危険性を孕んでましたよね、今思えば。
本作でもライフキングをプレイする時間を捻出するために分刻みで宿題を終わらせる主人公まことの姿の描写とかを目にして、あぁ俺もこんなだった、と恥ずかしくなりました。
そしてそのパワフルさと並行して、何にも負けないこれらパワーがこのあとどういった方向に傾いていくのだろう、と少し恐怖心も覚えました。
それが徐々に化けていくのが後半。
ノーライフキングに纏わる真偽不明の噂、つまり「デマ」に振り回される子どもたちは、次第に集団ヒステリーとも言える行動に移っていきます。
それらは社会現象にも成り、メディアでは大人たちが原因を探り、あることないこと論じたりしている。
けれど子どもたちは大人たちの推論を他所に、奇怪な行動を起こしていく。
そしてついに世界は「反転」し、ゲームの中に降り立った子どもたちは、ゲームクリアに向かって己を鼓舞していく…。
という物語です。
が、途中から置いてけぼりを喰らい、何度もページを行き来しました。
後半の内容が難解である理由は、今ひとつライフキングのルールが理解できない為、世界が反転したのちのこどもたちの行動がどういった意味があるのか、よく分からないからです。
私の読み込みが足りないのかと思いましたが、他の方のレビューを見ても、皆さん似たような感想をお持ちでした。
おそらく著者は確信的に雑に説明し、想像力を働かせたかったのかなと感じました。
そしてそれはおそらく成功し、現に私はよく分からないながらも、「よく分からないけれど、俺はすごいものを読まされている」という感覚に陥りました。
(そういえば『想像ラジオ』も同じ感情を抱きました)
また、本作が例えば2010年出版だとかであれば何も思わないでしょうが、
インターネットもない25年前に、デマや口コミの世に与えるインパクトを描き切っている、その鋭すぎる感覚にもただただ驚かされました。
内容をはっきり理解できていないので、また数年後読んだら違う感想を持つだろうなあと思います。