『今夜、すべてのバーで』 / 中島らも
★ × 80
禁断症状と人間を描いた中島らもの傑作小説アル中患者として入院した小島容。途切れ途切れに見える幻覚、妙に覚めた日常、個性的な人々が混然一体となって彼の前を往き来する。面白くてほろ苦い傑作長編。
折しもつい先日、デンゼルワシントン主演の「フライト」を観たばかりでしたので、アル中芸術を立て続けに味わうこととなりました。
とは言ってもこちらは著者らもさんの、半分実話の小説。
基本的にはコメディタッチでサクサク読めますが、終盤描かれる霊安室での飲酒シーン、そしてアルコホリック家族に関する報告書はもう最高に痺れました。まさにらもワールド!
酒やドラッグを題材にした作品はもれなく社会派と呼ばれ、否定を唱えられることを覚悟でよくぞ世に出してくれたと一部の層に奨励されがちですが、シニカルな私の目には、そういった物語の裏にどうしても「酒やドラッグかっこいいだろ」というナルシズムを感じずにはいられない。
ともすればこの美学に憧憬する人間が現れ、結局何の解決にもならないかもしれない、だから中途半端に語るなよ!と何様目線で言いたくなります。
けれど本作は違う。
勿論個人の価値観はあれど、少なくとも私は酒に怯えました笑。
これ程伝わるのは恐ろしい程博学な著者ゆえ、特に終盤の報告書の場面はアルコールを取り上げた作品において見たこともないような展開でした。
あと中盤、そもそも日本国自体がアルコールを奨励する存在でありもし他国民として生まれていれば、俺はその国で奨励(というか見て見ぬ振り)されるドラッグの犬に成り下がっていただろうという痛烈な批判には激しく共感しました。
ただ一方で天童寺家のように酒で全壊した家庭関係もあるという、酒に対する嫌悪と受容の間で揺れ動かされ続けられた小説です。
これだよ、言うなればこれを社会派と呼ぼうよ。