『孤独か、それに等しいもの』 / 大崎義生
★ × 85
内容(「MARC」データベースより)
今日一日をかけて私は何を失っていくのだろう…。孤独と憂鬱にとらえられた心にそそがれる柔らかな光。再生と恢復への祈りに満ちた珠玉短編集。『野生時代』ほか掲載を単行本化。
『パイロットフィッシュ』で有名な大崎善生さんの、表題作含む短編集です。
どの作品も身近な人の死をテーマとした、決して明るくない小説。
恋人や友人や家族の死を、60近くのおじさん(本作が出た時は50歳くらいですが)の著者が書いたとは思えないほど「女性らしさ」を感じる繊細なタッチで描いています。
例えば1話目『八月の傾斜』は、27歳になる主人公の女性が恋人にプロポーズされる話。
途中、主人公が学生時代に付き合っていた「大久保くん」が登場し、2人が好き合っている幸福な描写がありますが、大久保くんは学校の帰りにダンプカーに潰されて亡くなります。
そんな悲しい過去とプロポーズされた今をタイムトリップしながら話は展開します。
主人公は大久保くんを失い、10年経った今でも心の大きな穴を埋めることができない、そんな女性心を描いています。
上記あらすじを書きながら、字面で表すとなかなかに反吐が出る(言葉悪くてすみません)、セカチューよろしくな古臭い構成だなぁと思いましたが、著者の文章によって決して陳腐になりすぎず、大らかな気持ちですんかり読むことができました。
性描写も死の描写も売れるスパイスとして入っているようにも見えますが、窪美澄さん程ドギツいものでもなく、その辺り若くない男の著者ならではの表現なのかなと思いました。
最終話『ソウルケージ』では、ダイナマイトで自害した母親という、これまたトンデモな設定の主人公。 過去を忘れよう、見ないでおこうと蓋をして記者として突っ走ってきたけれど、ある日突如全てがプツリと音を立てて切れて、身体に異常をきたす。
このシーンは鬱々とした描写が続きますが、最後はキチンと光射す終わり方なので読後感も良かった。 なんか批判っぽい文章になってしまいましたが、非常に読みやすく、没頭もなんども出来て良い小説でした。
次は『アジアンタムブルー』を読んでみよう。