『泣き虫チエ子さん』 / 益田ミリ
★ × 85
(内容紹介)
カートのかごの中にはふたりの生活が入っています。大切なものを運んでいるって思うとチエ子さんは幸せな気持ちになるのでした──
『どうしても嫌いなひと』『すーちゃん』『週末、森で』『僕の姉ちゃん』『俺の宇宙はまだまだ遠い』『前進する日もしない日も』と、
実は結構読んだ本も多い益田ミリさん。
電車の中や喫茶店で読んでいる女性も何度か見たことありますし、書店にも平積みされているので、非常に人気も高いでしょう。
ファン層は20-50代くらいの女性が大半でしょうが、20代男性である私も、装丁だけは明らかに「トイレ本」でライト臭漂うこれら作品を、たまに読んでは考えさせられてしまいます。
本作の主人公チエ子さんは、サクちゃんという旦那さんと二人暮らし。
結婚10年目で子どもはいないけれどなぜかは明かされず。
益田さんの作品はこういった、思わせぶりな前提が示されない上で展開していくことが多いのが特徴です。
だから登場人物が些細なことで幸せを感じているような描写を見ると、よりその多幸感が強調される気がします。
チエ子さんは不安障害とでも呼ぶべきか、特に何気ない日常の中でふと漠然とした不安を感じ、涙が出てしまう。
それは自分やサクちゃんの死の想像のような、分かり易い悲しみ に起因していることもあるけれど、もっと漠然とした不安。
「これといった障壁はなく幸せなのに、それゆえに不安」という二律背反な感情。
これ、これ!めっっちゃ分かる!!となりました。本当に本当にそう。
仕事が火を噴いているとか身近な誰かが病気だとか分かり易いことじゃなく、何か分からないけれど心臓の裏から自意識という蛆が湧いて出てくるようなこの感じ。
益田さんのどの作品も、裏で流れるこのダウンライトな精神状態を物語と絵で見事に表現しきっている気がします。
本作がもう一つ良かったのが、一つ一つに少しだけでも光射す終わり方を示してくれていること。
何の作品か忘れましたが、益田さんの作品の中には、日常にパンクし脱却するため、主人公がサラッと仕事を辞めてしまうような辛辣な展開も結構あったりするので、見る人が見ると多大な影響を与えてしまうものも含まれています。
けれど今回はユーモアも交え笑顔で終われる、益田作品の中では「ポジ」寄りの内容でした。