『想像ラジオ』 / いとうせいこう
★ × 99
耳を澄ませば、彼らの声が聞こえるはず。ヒロシマ、ナガサキ、トウキョウ、コウベ、トウホク…。生者と死者の新たな関係を描いた世界文学の誕生。
内容(「BOOK」データベースより)
信じられない。これぞ「本を読む」という行為。過去読んだ小説の中でもトップになるかと思う程衝撃でした。
表題の通り、頭の中で想像でラジオが鳴るという奇妙な話です。
読みにくい1章を経たのちは、ただもう圧倒的に読まされるしかない。
ストーリーに関わることは極力省いて、2章以降について紹介したいと思います。
2章。死に対する議論。
「死者の声を聴く」という行為の是非というか、もっと拡張して言えば、死者(身近からいなくなった人)、そして大切な人を失った人に対しての思いをどう考えるか、という、世間一般ではタブーが良しとされがちな内容です。
ある2人の議論に焦点を当てていますが、2人の哲学のいずれを支持するか、といった高尚な想像を張り巡らすことなく、読んでる最中私は、ただただ2人の(というかいとうせいこうさんの)考えに圧倒された。
本当にぼんやりと、私は2人のうち木村宙太君という若者の意見の方にちかいことを感じていたかな、と思っていましたが、もう一方の登場人物の信念にも揺さぶりつづけられました。
ただ作中、ここで結論は出ず。
3章。ここで感じるのはただもう大きな怒り。
この辺りでようやく物語の骨格が見えてきますが、その先にあるのは深い悲しみと、それ以上に矛先のない憤りです。
読んでいて、全く意味の無いと分かっていても自責の念にかられたり、俺の周りでなくて良かったと何度も感じたり、身近な想像に置き換えて気分が悪くなったり、文字の羅列とは思えないうねりの中に終始居る感覚でした。
そして4章。もう1度死に対する議論。
章で言えば私にとってここが最も印象的です。
2章で永久に出口の無いと思われた議論の答えの尻尾くらいなら掴んだのではないか、という感じ。
死者の声を聴くということ、死後の世界とは何で、それは現世と全く切り離された次元にあるのか、遺された人は振り返らず前を向いて歩き続けるしかないのか、数十頁の密度に言葉が溢れてきて、3章よりも冷静に自分の考えと照らし合わせることができました。
死者を切り離すことはできない。
拡張のやり方が愚かであることを承知で、もっと広義の意味で言えば、生死に関わらず自分から離れていった人を切り離して生きることはできない。
それは何となく理解できていたことではあるけれど、こんなにもくっきりとした説得力で以て示されたのは初めてでした。
あともう一つ、この章の主人公はいなくなった人との対話として、ある手法を用いていますが、それに気づいた時あまりに切なくなって涙が出ました。
5章。予想できた終わりながら、物語が加速度的に収束していく粒子の飛散みたいなものが浮かんで、あぁ終わってしまう…という悲しみで支配されました。
1章から覗かせていた主人公の家族のエピソード、1章では何も感じなかったのに、この章で出てきた息子と妻の話では何度も泣きそうになりました。
死に対する著者なりの結論をくっきりと提示しているわけではありませんが、想像のラジオという異種格闘技戦みたいな形態を採用して、この5章分使ってあらゆる角度から読者へ問いかけている。
「俺はこう思うけど君はどう思う?」みたいに。
著者の考えに圧倒され思考停止してした状態になりそうですが、こんなに素晴らしい作品に出会えたのだから、頭で考え、本作に触れた別の誰かと意見を共有してみたい。
そう、こんなにもダラダラ感動を書き殴りましたが、一番言いたいのは最高の小説だったということ。