切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話
- 作者: 佐々木中
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/10/21
- メディア: 単行本
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『切りとれ、あの祈る手を―〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』 / 佐々木中
★ × 91
内容(「BOOK」データベースより)
思想界を震撼させた大著『夜戦と永遠』から二年。閉塞する思想状況の天窓を開け放つ、俊傑・佐々木中が、情報と暴力に溺れる世界を遙か踏破する。白熱の語り下ろし五夜一〇時間インタヴュー。文学、藝術、革命を貫いて鳴り響く「戦いの轟き」とは何か。
初、佐々木中さん。
以前「恋文」に関する雑誌のエッセイを読んで、独特の文章で面白いなと思ったり、熱狂的な友人に勧められて立ち読みしてみたりと、佐々木中さんに触れるチャンスは複数転がっていたはずなのですが、ガッツリは触れないまま今に至り…
よーうやく読めました。いやぁ面白かった!
「文字」と「革命」という、一見繋がりのない両者の考察を纏めたものです。
第一章「文学の勝利」で、どうやら著者はこの作品を通じて、文字を読むことがいかに偉大で危険な行為であるかを伝えたいということが何となく読み取れます。
今現在の自分が理解できないものには価値がないという思想、これはある意味真実で、文学などうっかり理解してしまったら大変であると言っています。
「よくわからない」「何となく気持ち悪い」と言って作品に身を入れ込んでしまわないのは一種の自己防衛で、
本当は読めるわけがない、他人が書いたものなんて理解できなくて当然であると言い切ってしまっているわけです。
これまで私は佐々木中さんや、その他著名な思想家の本に何となく拒否反応を示していて、それはこの方々の言う大切であろう言葉の数々を理解できない自分が露呈してしまうのが怖かったから、それだけだと思いますが、
こうやって「理解できるはずねえんだよ」と言われると、背中を押された気がして心強いです。笑
円城塔さんや上田岳弘さんのようなエゴの強い小説を理解できないとしても、その反応は健全であると。
偉大な佐々木さんにこう言われるんですよ、なので私のようにびびっていた方も、本書を読めば勇気出ますよ!笑
とまあ、ちょっと脱線しましたが、この「本なんて読めるわけがない」という理論を、第一章ではグリューンヴェーデル、第二章ではルター、第三章ではムハンマドといった偉人たちのエピソードを借りて武装しています。
話し言葉もあり、想像以上に読みやすい。
んで、もうひとつの核である〈革命〉についても、第二章でこのような触れています。
テクストを読み、読み変え、書き、書き変え、翻訳し、宣明すること。そのプロセスの中で暴力的なものが現出してしまうことはあります。私はそれを否定しません。しかしなお、それでも革命においてはテクストが先行する。テクストの変革こそが革命の本体です。
テクストを読むことがいかに偉大で危険かということはわかりました。
ただ、そのテクストに革命さえ起因しているということ、それはいくらなんでも少し飛躍しすぎなのではないか、そう思いましたが、二章の終わりに著者自身、飛躍を認めています。
んで、ちゃんと「焦ること勿れ。ちゃんと4章で説明するよ。」とまで書いてある。
さあ、その、4章「我々には見える 中世解釈者革命を超えて」ですが、、すみません、私には少し難易度が高く、理解できませんでした。。
二つある核のテーマのうち一方を理解できないとは…
ただ前述の通り、「本なんて読めるわけがない」ので、まあ良しとしましょう。笑
もう一つ、私が非常に面白かったのは少し脇道の部分かもしれませんが、自らの死と世界の滅亡を一致させることの議論についてです。
ナチスやオウムを例として挙げていますが、どうせ人は死ぬのだから自分だけ死ぬのではない、戦争のための戦争だーーという終末論たいうものは、言っちゃえば自分主義の極み。
最終章にも繋がりますが、地球なんてこれまでにも「ほぼ終わり」の状態に五回もなっているのに、未だに種は粛々と続いている。
そんな途方も無い終わりのない世界に生きているくせに、自分の生きている高々100年間に終末が訪れるなんて、まあ素晴らしいオンリーワン論!
「文学が死んだ」なんてよく言ったものよ、
ドストエフスキーがデビューしたとき、ロシアの全盲率は90%、つまり10人に1人は文字が読めなかったといいます。それでも文学は死んでいないんですよ。
と、要は世界も文学も何もかも、「終わり」なんてある筈ないからガチャガチャ言うなよ、私はそういう風に読めました。
第5章は確率論を交え、何千何万年単位の範囲で世界を捉えた上での話で、少し現実味が薄くなってはいますが、こんなマクロで捉えると少し気持ちが軽くなるのも事実。
読み終えてすぐ目の前の日常に戻る訳ですが、こういった思想に触れられる機会はやっぱ読書でしか得られないと思うので、読めてすごく良かったです。
「理解したい」という欲は捨てて、これからはいろんな著者にチャレンジしよう…。
私は歴史や思想や宗教に疎いため、佐々木さんの引用する数々を理解しているわけでは全くありませんが、