『しょうがの味は熱い』 / 綿矢りさ
★ × 86
内容(「BOOK」データベースより)
愛し合って一緒に住んでるのに、婚姻届を見ただけで顔がひきつるってどういうこと!?好きなのにどうしてもすれ違う二人の胸の内を、いやんなるほどリアルに描く連作2篇。ひりひり笑える同棲小説。
タイトルも装丁もセンスありの小説が多いですが本作も然り。
前知識なしで読み始めましたが、ジャンルとしては個人的にかなり久々の、真性の恋愛小説でなかなか楽しめました。
一組の男女が主人公で、7対3くらいの割合で女性多めの目線で交互に語られます。
2人は結婚していないものの、同棲して3年が経つ。
男はどちらかといえば寡黙、仕事はきっちりこなし、家では出された料理を食べて次の日のためにベッドインするような典型的ニッポンのサラリーマン。
女に対しもちろん愛情はあるものの、行く末の将来像を考えるような面倒くさいことまではせず、事勿れ主義で物事を進めたい性格です。
女はどちらかといえば激情型、男が帰ってくるのをじっと待ち、男のために尽くし、愛想をつかされるのも構わず愛をひた向きに注ぐ。
男のいない日常なんて想像できず、故に「結婚」というセンシティブなワードをなかなか言い出せずにいる健気さも持ち合わせて、同棲を始めて3年が過ぎました。
この物語、基本的に男女の燻った感情を綴っているのですが、面白いのは二人とも全然好きになれない点。笑
始めから最後まで男の生き方は辛そうだし、女の子の考え方はどう考えても重い。
「重さを表に見せない」ように努力している姿が、もう重くて疲れます。
『勝手に~』もそうでしたが、人物像の描き方に確信的に愛がないというか、 うえー、おえーと読者に顔を顰められながら読んでもらおうとしてるんじゃないかってくらいの書き方に、逆に好感が持てます。
後編の中盤以降で、二人が3年間溜めた感情が爆発し、結婚話をきっかけに離れ離れになってしまいます。
そこから二転三転して、最終的にハッピーエンドに向かうのではありますが、その形態が妙に歪で、「えっこれでいいのか綿矢さん」と突っ込みたくなるくらい、雑な感じで終わってしまいます。笑
それまでの細かな感情描写がすごくリアリティある分、展開としてはものすごくファジーにされてしまい取り残された感がありますが、前述した「確信的な愛の無さ」の演出としてはこれくらいが丁度良いのかなと感じました。
話の筋からは「恋愛に悩む女性をターゲットとしている」ようにも見えますが、本作から解決策を得られるかといったら決してそうではないので、ひねくれた感覚で読むくらいが楽しめると思います。笑