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内容紹介
ブータン政府公認プロジェクトで雪男探し!! 「あの国には雪男がいるんですよ!」。そのひと言に乗せられて高野氏はブータンヘ飛んだ。雪男を探しながらも、「世界最高の環境立国」「世界で一番幸せな国」と呼ばれる本当の理由にたどりつく。
『恋するソマリア』ですっかり魅せられた高野秀行さん、2回目です。
以前ワンチュク国王が来日したとき、「国民総幸福量」という尺度が世界一だというよく分からないキャッチコピーにより、一時日本でもブームとなった国、ブータンを巡る旅が本作のテーマです。
世界一幸福な国って、一体なんなんだ?という疑問に対し、高野さんなりに答えを導いていくノンフィクション。
『恋する〜』同様、衣食住を現地の人々に極限まで合わせることで、本当の意味でその場所を自らの肌に浸透させる、という高野スタイルで、旅はブータンでも都心でないエリアを中心に続きます。
そこでは高山病になったりグデングデンに酔ったり、軽い言葉で綴られる割に苦しいシーンもたくさん出てきます。
それでも読んでいてどうしようもなくワクワクさせられるのは、第一に高野さんの筆致ゆえ、そして前述の通り現地人に寄り添うことで触れ合う彼らの優しさやユーモアが伝わってくるからです。
よく旅行先で、店先やホテルでの接客を数度味わっただけで「この国の人は優しいなぁ」なんて知った気になりがちですが、高野さんの作品を読むとなんて浅はかだったんだろうと痛感します。
本作の舞台であるブータン、ここは電気もきちんと整備されておらず、決して裕福であるとは言えない人々がたくさんいる国であり、パッと見「なぜこれで世界一幸せの国なのだろう?」と思ってしまいますが、終盤に高野さんがその理由を探る部分が出てきます。
この国には「どっちでもいい」 とか「なんでもいい」という状況が実に少ないことだ。何をするにも、方向性と優先順位は決められている。実は「自由」はいくらもないが、あまりに無理がないので、自由がないことに気づかないほどである。
(中略)
ブータン人は上から下まで自由に悩まないようにできている。それこそがブータンが「世界でいちばん幸せな国」である真の理由ではないだろうか。
ここを読んで、浦沢直樹さんの『20世紀少年』の「人類が滅亡した後」の世界を連想してしまいました。
鎖国し、近代化を置き忘れてしまったユートピアのようなブータン、そこでは人と比べない、小さなエリアで生きることがすべての人種が生活している世界で、完全にブータン一帯のみタイプトリップしたような光景。
なんかこんなことを考えていると、「国民総幸福量」が一体何なのか分からなくなりました。
私なんかは本書を読んで「日本人で良かった」とか思っちゃいますが…。
何も知らないまま生きていくのか、何かを知ってしまってヤキモキしながら生きていくのか、そういったことを考えながら読んでしまいました。
面白かったです。てか、高野さんホント文章巧い!!