『ワイフ・プロジェクト』 / グラム・シムシオン
★ × 89
内容(「BOOK」データベースより)
ドン・ティルマン、39歳、遺伝学者。ハンサムで頭はいいし料理も得意、しかし生涯彼女に恵まれたことがない。周囲の空気を読めず、いつもなんだか浮いている。デートすれば必ずとんでもない結末に終わる…。しかしそれでも素敵な女性を見つけて結婚するのが夢。そうだ、とにかくまず自分には合わない女性を排除しよう。水商売関係×、時間にルーズな人×、喫煙者×、酒飲み×、ベジタリアン×、頭の悪い女性×、浪費癖のある女性×…こうして「ワイフ・プロジェクト」が始まった!
『帰ってきたヒトラー』以来、久々の洋書(そういえば『帰ってきた~』は未だ下巻読めてない…)。
映画化も決定しているらしい、世界中で話題となった2014年のフィクション小説です。
あらすじは上述の通り、ドン・ティルマンという未婚の男性が婚約相手を求める「ワイフ・プロジェクト」を遂行していくという話。
ワイフプロジェクトとは、単なる恋愛感情のマッチング、言わば衝動的な理由だけで結婚を決意するのではなく、己に合う複数のパラメータ(喫煙しない、整理整頓ができるなど)を合算して、閾値を超える女性を定量的に見つけていくという、極めて理系的なアプローチで伴侶を探すこと。
ドンはプロジェクトを遂行していく中で様々な女性と出会い、パラメータより定量評価値を叩き出しては閾を満たさず…という行為を繰り返します。
そんな中出会ったロージーという1人の女性。物語はドンとロージーの展開が大半です。
この小説、中盤あたりで気付いたのが図らずも、個人的に大好きだった瑛太と尾野真千子主演のドラマ『最高の離婚』に酷似していること。
主人公のドンは自閉症スペクトラムであり、ドラマでの瑛太同様一つ一つの物事に理屈的で数値的な解釈を付けていきます。
例えば彼は一週間の食事を前もって全てスケジューリングしており、栄養バランスや食費の効率性を平然と述べてあげる。
このようにドンは上述のように理系的で、見ていて気味が悪いけれど、それでもニヤッとしてしまう描写がアメリカナイズドされて続きます。
んで、これも『最高の離婚』に近いのですが、そんな理屈のドンと対を為す、理屈では片付かない感情の部分を作品において司るのがロージー。ドラマで言う所の尾野真千子さんですね。
山崎ナオコーラさんの小説に『論理と感性は相反しない』とありましたが正にそうで、
終盤までずっと、論理のドンと感性のロージーが相反して恋愛が足踏みしているのですが、終盤になってそれらが相反しないものであり、ワイフプロジェクトが結局、定量値や論理では片付かない「対人間」であることがドンによって結論付けられています。
この辺り、何度も言いますが『最高の離婚』に似ていて、ドンは瑛太の心情を解説してくれているようであり、最後の方はあのイケメン顏に丸眼鏡を無理やりかけさせた姿をドンに照らし合わせて読んでました笑。
プロジェクトは何だったのか、
パラメータ要素を多く満たさないロージーに何故惹かれてしまったのか、
これらの問いに対して、ドンなりに結論付けていく結末は非常に面白かったです(しかも結論が、きっちり箇条書きで筋立てられているのが理系的で巧い)。
同時にこの作品、要所要所で映画的であり、且つ「理詰めの男が数値で片付かない恋愛に翻弄される」という分かり易い設定も映像化されやすいと感じました。
原作厨の人は、ドンやロージーのイメージのない今の内に読んで損は無いです!