上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (光文社新書)
- 作者: 上野千鶴子,古市憲寿
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/10/18
- メディア: 新書
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内容(「BOOK」データベースより)
ベストセラー『おひとりさまの老後』を残して、この春、東大を退職した上野千鶴子・東大元教授。帯の名文句「これで安心して死ねるかしら」に対して、残された教え子・古市憲寿が待ったをかける。親の老いや介護に不安を覚え始めた若者世代は、いくら親が勝手に死ねると思っていても、いざとなったら関与せずにはすまない。さらに少子高齢化社会で、団塊世代による負の遺産を手渡されると感じている子世代の先行きは、この上なく不透明。だとすれば、僕たちが今からできる心構えを、教えてほしい―と。これに対し、「あなたたちの不安を分節しましょう。それは親世代の介護の不安なの?それとも自分たち世代の将来の不安なの?」と切り返す上野。話は介護の実際的な問題へのアドバイスから、親子関係の分析、世代間格差の問題、共同体や運動の可能性etc.へと突き進む。30歳以上歳の離れた2人の社会学者の対話をきっかけに、若者の将来、この国の「老後」を考える試み。
上野千鶴子さん『おひとりさまの老後』、一人で年を老い、安心して死ぬためのハウツーを描きベストセラーになったこの作品を読んだ若き社会学者古市憲寿さんが、「待ってよ!介護者となり得る子どもの俺はどうすりゃいいの?」という疑問を上野さんにぶつける形式の対談です。
パッとメディアに露出して二言三言の発言を見るだけでも、「この人おじさんとかに嫌われそうやな」と思っちゃう、けれど知識と考察にきっちり裏付けられた展開をするので、個人的にはややこしい言葉で包もうとする学者より分かりやすくて好きです。
ただ本作で、そんなロジックの古市さんが上野さんに悉く論破されていく様が非常に痛快。
且つ、対談を通して古市さんの考えが収束し、最後一つの結論に達する(これがすごく良かった、あとで書きます)までを見届けられるのも魅力です。
以下ザーッとレビューします。
本作は基本的な構図として、「年金とか介護不安なんすけど」「なんで少子化対策やらないの?」という素朴な疑問を古市さんが投げかけ、上野さんが回答するものになっています。
それら疑問は私のような無知な同年代が正に感じているようなことばかりですし、基本的に考えが甘い&自分に正直な古市さんなので、「介護したくないけど遺産欲しいです」みたいなことを怖いものしらずで言っちゃう。
んで、上野おばちゃん(失礼)に一喝される。
けれど基本的にはオラオラ感の強い上野さんですが、決して否定否定で切っていくのではなく、良いところはちゃんと認めています。
例えば日本の介護保険、日本くらいのスケールでそれが成り立ったことは奇跡に近く、アメリカは5000万人が健康保険でカバーされない弱肉強食社会であることを考えれば、日本の介護保険は見上げた制度であると言っています。
年金制度も、無かった頃は子供は経済力がついたら、自分で親に仕送りをしなければならなかった、つまり介護以前に、親を扶養しなければならなかった。
これ、制度の確立した今だと無かった時代は考えにくいのですが、ここで上野さんが強調しているのは、特に前者の介護保険なんかは、何も戦後からずっとあったわけではなく、ここ十数年で出来たということ。
事勿れ主義で、良くない流れを良い流れに持っていく何かしらの大きな力が働いて今に至るわけではなく、そこには血も涙も枯れる程先人の知恵と努力が詰まっているということ。
それを見てきた上野さんなので、本書で全体的に常にイライラしているように見える一番の理由は、おそらく古市さんが、不安だ不安だとただ主張し、こんな時代を造った団塊の世代に不満を垂れているだけで、自分の力で何かを変えようという意志が見受けられないからだと思います。
古市さんの作品が若い人に支持されるのはここに起因していると思いますし、同時に若くない人に否定されるのもここ。笑
けれど上野さんの意見としては、何も制度を変えろ、そのために政治家になれと言っているのではなく、まずは疑問を持つことから始めろと。(今日はたまたま都構想選挙ですが…)
んで、それを受けて導かれる古市さんの「最後の結論」は最終章『ウザい、キモいから始めよう』に出てきます。
今の若者の(というか古市さんの)意見としては、自分の大切な家族や恋人や友人知人、決して広くないその輪が無事安心できる生活を送ることが幸せだと。
んである日、大切な誰かが何かしらの理不尽な不幸を被った時、そこで初めて「なんかこの制度おかしくねぇ?」となり、自分のアタマで物事を考え出すようになる。
上野さんはそれでいい、そこからやがて大きな流れになると言っており、初めて古市さんの意見と合致します。
ちょっと流れが綺麗すぎる気もしますが本作はここで終了。
ただ若者が怒られるだけの作品でなく、きちんと良い指針を示してくれるものでした。
さて、大阪市はどうなるのやら…
分からないことはたくさんありますが、分かる範囲で考えていきたいと思います。