★ × 84
内容(「BOOK」データベースより) 居酒屋で時給900円のバイトをしながら、法律の勉強にはげむ中国人女子留学生・林杏は、ある日同級生に、弁護士である父親が中国人容疑者の弁護をすることになったので通訳をしてほしい、と頼まれる。合計3時間50分の「労働」で得た報酬は、1万5千円!「わぁ、う、おぇ」驚きの声を発しながら、林杏はお札のなかで口を一の字に結ぶ着物姿の女性をしげしげと見つめた―。
初の作家楊逸さん。
2007年、「ワンちゃん」で第105回文學界新人賞を受賞。
2008年、「時が滲む朝」で第一三九回芥川賞受賞。
山内マリコさん『ここは退屈迎えに来て』など、ジャケ写買い必須な本てたまーにありますが、本作も然り。
著者の履歴は全く知りませんでしたが、装丁の面白さがずっと気になっていて、今回ようやく読めました。
2人の人物目線で交互に展開される長編小説。
1人は中国人女子留学生である林杏。
法学部専攻の彼女は、ある日中国人容疑者との通訳アルバイトで大金が舞い込む。
しかしそのアルバイトで容疑者や弁護士との人間模様に振り回され――という、まあよくありそうな展開。
んでもう1人の主人公、これが衝撃なのですが、なんと5千円札の樋口一葉。笑
「金」が一人称となり、日本や中国で金の主を転々としていくという物語です。
まあ前者は分かりますが、まさか後者で、2人目の主人公が「金」とは。。。
2人の物語が交互にチェンジしていくのですが、後者は初めの方かなり読みにくかったのです。
けれどよく分からなかったのが、かなり序盤から物語がパラで走っていき、終盤絡み合っていくと思いきや、最後まで2つは交わらないまま終わっちゃうというちょっと謎な構成だったところ。
なぜ著者はこんな構成にしたのか?単に斬新さで出オチだったのかそこが少し腑に落ちませんでした。
興味深かったのは中国人留学生、林杏の金への執着。
彼女の家族との会話から、中国から日本の大学に出る、ということは中国一般家庭にとってかなり重荷なんだということが伝わってきます。
家族に負担をかけていることを負い目に感じる林杏は、何としても日本の大学で多くを学び、将来出世することで恩返しするという確固たる意志が見え隠れしている。
けれど同時に、日本の大学の授業じゃ意味がないんじゃないかということも感じていることが分かる。
この辺著者自身の経験がビシビシ入ってるんだろうな…と否が応にでも滲み出ています。笑
中国人に限らず日本に出て来たやる気満々の留学生は、日本の大学の緩み切った雰囲気をどう感じているだろうか、、、と、小説とは関係ないところで無駄に心配していました。
小説自体は、まあまあ。。といった感じ。
『ハンサラン 愛する人びと』のように、異文化に触れられるという点では面白かったです。