- 作者: 西加奈子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/12
- メディア: 単行本
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『地下の鳩』 / 西加奈子
★ × 86
内容(「BOOK」データベースより)
大阪、ミナミの繁華街―。夜の街に棲息する人々の、懸命で不恰好な生き様に、胸を熱くする力作誕生。
2015年の個人的西さんは、2011年発売の本作からスタートです。
が、これまで私が読んだ西さんワークスとは少し異質な作品でした。
裏表紙にあるように、「夜の顔」に挑んだ異色作。
2話の中編が収録されていますが、いずれも大阪はミナミの夜の商売を描いたものです。
表題作である1話目は、キャバレーで働く吉田という男と、スナックのチーママであるみさをという女の物語。
二人の視点から、そして時折鳥瞰的に展開していきます。
が、こちらは特筆すべき内容がない。。。と書いてしまえばレビューの存在価値皆無なので、2話目に関し以降書きます。
2話目「タイムカプセル」は、オカマバーを営むミミィの話。
こっちがとても良かった、表題作よりも好きでした。
本編ではミミィ以外にもオカマの従業員が出てきて、バーで客対応をこなす日常的な描写が結構な分量ででてきます。
それが物凄くリアリティ(実際オカマバー行ったことないので推測ですが)を持って描かれていてとても面白かった。
男女年齢問わず、対面した者がどういった言葉を求めているか、ミミィなりの分析の基にそれらに対する解があり、漏れなく喜ばせていく技量は非常に痛快ですし、それを説得力持たせて書く著者の文章力もさすがだなと思いました。
(期せずして先日『カワイイ地獄』というキャバクラ小説を読みましたが、あっちよりも断然納得した)
んで、本編は展開の素晴らしさも際立ってる。
オカマバーには菱野という常連客がついているが、ある日を境に彼が姿を見せなくなった。
ミミィはのちにその理由を知り、菱野と己の過去を重ね合わせながらある行動に出ます。
彼らの過去とは、端的に言えば学生時代虐めにあっていたこと。
西さんの小説で常に問われる「人と違うことが何故悪なのか」というテーマがここでもでてきます。
彼らは太っていたり女っぽかったり毛深かったり、「人と違う」ことで苦しめられてきた。
それはじゃあ大人になったら消え失せるのかといったらそうでなく、形は違えどやはり彼らに迫ってくる。
特にオカマバーという、存在自体が異なるものである舞台のなかでは、各々が各々で混沌とした思いを持っているのが伝わってきて、終盤にはキワモノみたさの前半とはまた違った味を感じることができました。
夜が舞台の意欲作、と言えばそれまでですが、結局は他の西ワークス違わず、「個を立てる」ことの歓びや重要性が強調されている、なかなか考えさせられる作品でした。