『僕は問題ありません』 / 宮崎夏次系
★ × 91
少し不思議で、鮮やかな感性。大人が読んでもグッとくる物語を描く宮崎夏次系の最新作。 生きていく淋しさを抱えた、すべての人の心に虹をかける短編八編を収録。
浅野いにおさん『世界の終わりと夜明け前』と一緒に古本屋で見つけた漫画。
友人が薦めていた宮崎夏次系さんに初挑戦です。短編。
2回読んだのですが、断然2回目の方が良かった。
まず1話目『線路と家』で、宮崎夏次系とは何かということをガツンと知らされました。
祖父に孤独を強要される少女、そしてその少女に恋する少年の話。
ざっくりとしたストーリーは申し分なく平凡、単に世間を知らない女の子に、いじめられっ子の男の子が恋をして孤独から解放してあげようという、少女漫画や映画でもよくある展開ですが、
第一にとにかく圧倒的な「画力(えぢから)」、決して好きな絵ではないはずなのですが、2回目にはすっかり虜になってしまったような魅力があり、
そして『線路と家』で言えば、祖父が一体何者なのか、少年が少女の家に向かった際の電車の線路はどれだけクネクネしているのか(笑)、
そういった、平凡なストーリーに並行して走る意味不明な「非日常感」が画力にプラスされ、1話1話物凄く情報量の多い作品になっています。
画力で言えば3話目の『はねる』が素晴らしい。男を車ではねて殺してしまった男が、被害者の妹に謝罪に行く話。
良い評判の聞かなかった生前の被害者であるが、実は妹の家の周りに内緒でチューリップを植え続けていたという、これまた言っちゃえば陳腐な展開っちゃそれまでなのですが、
妙に可愛く魅力的な妹や、加害者が最後に車にひかれてしまう刹那の数ページの緊迫感に惹かれてしまいました。個人的には一番好きな短編です。
非日常感で言えば5話目の『メゾン・ド・生沼』、二世帯しか住んでいないアパートから引っ越す女性が、アパートに残った男性に別れの挨拶をする話もとても良かった。
まず、二世帯しか住んでいないアパートってどんなだよって思っていたら、そのアパートの内装もはや意味不明・説明不可能でした。笑
結局は男の不器用さにフィーチャーされるのですが、この無重力のような非日常に、まるで読みながら頭にもやがかかったようになってしまい、構成にすら妙に感動してしまいました。
他にも最後の『肉飯屋であなたと握手』、これも結末に向かって一気に加速していくスピード感が非常に良かった。
というかここら辺まで来たらすっかり憑りつかれているので、あまりストーリーは入ってきませんでした、とにかく画と発想の妙を楽しむスタンスになっていました。
いやーーーこれは素晴らしかった!他も是非読んでみたいです。