『黄金の少年、エメラルドの少女』 / Yiyun Li
★ × 88
内容(「BOOK」データベースより) 代理母問題を扱った衝撃の話題作「獄」、心を閉ざした40代の独身女性の追憶「優しさ」、愛と孤独を静かに描く表題作など珠玉の9篇。O・ヘンリー賞受賞作2篇収録。
『千年の祈り』以来のイーユンリーさん。同じく短編集で、物語の舞台は著者の出生地です。
『千年の祈り』は久々、というかほぼ初めていわゆる海外文学に触れた作品だったので、小説に対してというより今まで避けててごめんなさいという気持ちが大きく、点数も高くなっていました。「著者は各物語で、一体何を言っているのだろう?」という、そしてそれが決して悪い意味でなく良い意味での混沌さ。何人もの人が寄稿したオムニバス感覚。
各篇で描かれる日常は私にとって間違いなく非日常であり、既視感など無く、けれどあまりにもすんなりと感情移入できて、
その日常に何故か常に「人間の壮大さ」みたいなものが感じられました。
これまた的外れな例えですが、漫画の「ベルセルク」を読んだ時のような、圧倒的な力、神々しさみたいな圧を浴びせられた感じ(ああ、乱文過ぎてこの気持ちを伝えられない)
見知らぬ人の優しさはいつも記憶に残る。それは見知らぬ人の優しさが、結局はまさに時のごとく心の傷を癒してくれるからだ。
両親の死も、杉教授の死も、魏中尉の死も悲しまなかったのに。目を閉じれば、射撃練習場で「夏の名残の薔薇」をうたう南の美しい声が、また聞こえてくる。彼女が気まぐれにくれた優しさは、いまは他人となった者の記憶の中に生き続けるだろう。
『優しさ』に限らず他もそうですが、登場人物は決して順風満帆に非ず、けれど決して自分を折れない強さと信念を持っていることが伝わってきます。
『優しさ』で言えば上記の引用のように、己の心を大きく占める存在に対してでなく、それ以外の些細な喜びや楽しみにフォーカスを当てている。
しかもそれが、「本当にこれでいいのだ!」と真からくる主張というよりは、「これしかないのだ」という諦念に聞こえてしまうから非常に切ないのです。
そう、あまりに俗っぽい言い方ですが、なんかせつねー。。
代理母出産の依頼人と代理母を描いた『獄』もなかなかに衝撃でした。
主人公は娘を亡くした数年後、夫の希望で代理母出産を決意する。
自ら代理母となる女性を決定するが、その女性は身を売られた経験を持ち、息子がいたが行方不明となっている状態。
そんな二人が出産までの期間ともに暮らしている中で徐々に打ち解け、二人で買い物にいくような仲となるのですが、終盤に代理母の女性が自分の息子と思われる少年を見つけてしまう。
その後に交わされる依頼人と代理母の会話が話の肝ですが、ぶっちゃけるとそれまで築き上げた信頼がすべて打ち壊されてしまう。
そして限られた頁数の中で結末は語られず、くっきりと余韻を残した状態で終幕する…という、感情のやり場に困ったまま次の物語に進まざるを得ないもどかしさ!
本編に限らず、どの話もそんな感じ。
装丁の絵のファジーさ同様、感情がバウンドした状態でフィナーレを迎えるという連鎖が続きます。
当然訳者の巧みさも相当にあるでしょうが、やはり著者の短編小説家としての素晴らしさがこういったところに出てるのかなーと思いました。
『千年の祈り』ほどの衝撃はありませんでしたが、「スゲー」海外小説に触れるための著者の一人であることはやはり変わらずと感じました。