『恋文の技術』 / 森見登美彦
★ × 85
(内容紹介)
一筆啓上。文通万歳!――人生の荒海に漕ぎ出す勇気をもてず、波打ち際で右往左往する大学院生・守田一郎。教授の差し金で、京都の大学から能登半島の海辺にある実験所に飛ばされた守田は、「文通武者修行」と称して、京都にいる仲間や先輩、妹たちに次から次へと手紙を書きまくる。手紙のなかで、恋の相談に乗り、喧嘩をし、説教を垂れる日々。
しかし、いちばん手紙を書きたい相手にはなかなか書けずにいるのだった。
青春の可笑しくてほろ苦い屈託満載の、新・書簡体小説。
『夜は短し歩けよ乙女』以来、10年ぶりくらいに森見さんに挑戦!
恩田陸さんの『Q&A』という小説は、すべての文章が一問一答で、徐々に物語の全貌が明らかになるというぶっ飛びミステリーでしたが、こちらは一人の男から複数人の相手に書き続けた手紙のみで物語が進むという、個人的には初めての書簡集です。
手紙を書き続けた守田一郎という男は、京都の大学からクラゲの研究のため石川の能登半島に飛ばされた大学院生。
送る相手は研究室の先輩後輩だったり、妹だったり、家庭教師の教え子だったり、そして著者・森見登美彦だったりします。
内容としては、基本的には森見さんの得意とする「童貞観」がベースにあって、守田一郎という自意識の塊のような男が、女性への馬鹿げた勘違いや、うまくいかない己を美化し正当化する間抜けっぷりなどが、面白おかしくおかしく描かれています。
その文章は知的センスに溢れていて、読んでいるだけで頭がよくなったんじゃないかと勘違いさせるほどの独特の言い回しで展開されています。
ただし読み進めるにつれ、私が高校生の頃、ジャケ買い必至の『夜は短し~』を読んだ時と同じ感情を抱きました。
それは
「飽きた」
という思い。
言語能力の高さみたいのがはじめはすごく新鮮なのですが、徐々にそれらに飽きがきて、けれど長編であるから残りの頁も気にしてしまって「まだこんなにもあるのか…」と感じる。
途中でやめちゃおうか、そう思ってしまったのが正直な感想です。
(そう感じたのは私だけじゃないはず…ファンの方申し訳ありません)
ただし、ただしですよ、本作は終盤にすごいの持ってました。
だから飽きがきたアナタ、是非がむばって最後まで読んでくれと言いたい!!
第10話までは守田一郎目線から綴られる手紙のみで進行しますが、第11話からは他の登場人物が書く手紙に視点がガラッと切り替わります。
が、実はこの章の最後に伏線回収劇があって、最終話である第12話では、それまでとはうってかわって素晴らしく感動する守田一郎目線の手紙に戻ります。
本作のハイライト、まさに恋文の技術。
言えません…この伏線を書いてしまえばエンタテイメント性が半減するので言えませんが、とにかく最後まで読むべき小説。
中盤までの倦怠感は、最後のカタルシスへの布石だったんだと感じた程です。
森見さんのユーモア性が真から楽しめたとは言いがたいかもしれませんが、物語の構成として素晴らしい、そう思える作品でした。
読みながらニヤニヤする場面多々ありますので、癒しを求めた書籍を欲するならばお薦めです。