『暗号解読<上>』 / Simon Lehna Singh
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内容(「BOOK」データベースより) 文字を入れ換える。表を使う。古代ギリシャの昔から、人は秘密を守るため暗号を考案してはそれを破ってきた。密書を解読され処刑された女王。莫大な宝をいまも守る謎の暗号文。鉄仮面の正体を記した文書の解読秘話…。カエサル暗号から未来の量子暗号に到る暗号の進化史を、『フェルマーの最終定理』の著者が豊富なエピソードとともに描き出す。知的興奮に満ちた、天才たちのドラマ。
通信の勉強をしていると、必ずや出てくる『WEP』『WPA』『DES』『AES』といった、庶民にはあまりに不親切な略式ですが、無線LANルータの設定なんかしてる時でも、何の気なしにバンバン出てきます。
けれどその実、一体何を意味しているのか、内部ではどんなアルゴリズムで保護されているのか、全く以て知る由もありません。
そりゃそうだ!!暗号なのだから!!
という煙に包まれたロマンある世界を少しでも理解したい気持ちはあったのですが、ただ「難解」というイメージだけが先行して知ろうとしなかった自分に喝を入れる為、
個人的には小さな事件とでも言うべき『フェルマーの最終定理』を教えてくれた著者、サイモン・シンさんに再度教えを乞うて、このたび暗号の世界へ足を踏み入れてみました。
…おもしれ~~~!!!!てか、相変わらずサイモン文章うめぇ~~~~~!!!!
上巻しか読んでませんので、上巻だけのレビューをします。
上巻では、中世ヨーロッパから第一次世界大戦までを、暗号からの視点で紐解いています。
そこでは、民族・国家の争いにおける「情報の秘匿性、信頼性」が如何に大事であったか、そしてその品質を保持するためには暗号が必要不可欠であったことが描かれています。
そもそも私のような一般庶民には、特に機密にするようなメッセージなんぞ発信しないのだから、内部でどう暗号化され復号化されようと知ったこっちゃないと思ってしまうのですが、当たり前のようなメールの文面もしっかりと暗号化されており、そのテクニックの裏には、本書で描かれている偉大なる先人たちの知能が積み重なっているのです。
んで、暗号理論のいっちばんオモしれーのが、現在使われているアルゴリズムを完璧に突破しているのは世界にほんの一部の人間だけで、それらが公表されるのは、その暗号化技術を使わなくなる数十年後である、という点。
だから本書でも言われているように、超素晴らしい暗号解読技術を以て大活躍している人はその時点では評価されず、その技術が通用しなくなって初めて、「ああ、アイツはすごかったんだ」と称賛されることになるのです。
”解読不能”とも呼ばれたヴィジュネル暗号や、戦時中に猛威を振るったエニグマだって、当時は誰もその能力を疑わなかった。
けれど後々に実は解読者が存在して、我々が発信していた情報は全て傍受され解読されていたことを気づかされることになる。
死して初めて評価されるこの感じ、なんとも切なくてサイコーです!
あとは著者、サイモンさんの文章能力がやっぱりめちゃめちゃ優れていることに驚きました。
「文章を難しくする」暗号理論なんて、そもそもが難しい学問であるのに、本書には歴史上重要となった暗号化技術の上澄みを舐めて終わりにするのでなく、技術の詳細を追い、更には解読方法まで根気よく紹介されています。
当然内容は複雑になっていくのにも関わらず、集中して読めば、きちんと理解できるようになっている。
その辺の学術書よりよっっっぽど分かり易く、そしてエンタテイメント性に溢れている。
だからこれを読んで「しばらく理系の勉強は敬遠…」とはならず、むしろ無駄に数学とか再勉強したくなる情熱を燃やしてくれる効果を持っています。
いやとにかく、少なくとも理系男子は読むべき!!
上巻はようやく無線通信技術が確立された時代までを描いただけなので、おそらく下巻ではインターネットが普及し、もはや小学生も暗号化を見て見ぬふりできなくなったこの現代を描いているのでしょう。
あぁ、楽しみで仕方ない!!下巻のレビューはまた後日。