『満願』 / 米澤穂信
★ × 85
内容(「BOOK」データベースより)
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは―。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、ミステリ短篇集の新たな傑作誕生。
第27回山本周五郎賞受賞
2015年版「このミステリーがすごい! 」第1位
2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位
2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位
という、名だたる賞を総なめにし、2014年のミステリー業界の代表を突っ切り、今なお本屋に平積みの嵐、米澤穂信さんの『満願』です。
私が横山秀夫さん、道尾秀介さん、今野敏さんらにダダハマりし、売れたミステリー小説を一通り舐めたかった数年前、『インシテミル』『ボトルネック』の2作品がその年のランキングに同時ランクインしているのを見て、何も考えず手に取ったのが米澤穂信さんとの出会いでした。
ただ上記2作品はいずれも面白いとは思えず今に至り…かなりご無沙汰しておりました。
本作は短編集。
いずれも最後の1行まで読まなければ決して納得できない、そして最後の1行でようやく納得させてくれる作りになっており、精巧に練り上げられている感が伝わってきます。
全てハードボイルドよりで、以前読んだ前述の2作品とは少し印象が違いました。
『柘榴』はある家族の物語。母親と、娘の視点から語られます。
母親は、働きもせず家にもろくに帰らない父親との離婚を決意します。
金銭面に不安はあるものの、自ら腹を痛め、死に物狂いで育てて来た娘二人への愛情は疑いもなく、また成人としてあまりに頼りない父親に娘を譲るなど考えようもなく、二人の親権を得られることを疑っていない。
一方で娘二人はともに、裁判所で自分たちがどうしたいか意志を示さなければならない。
精一杯の愛情を注いでくれた母親か、働きもしないけれど決して憎むことのできない父親か…。
娘たちは己のアタマで考え、やがてある結論に達します。
まずこの結論に驚き、そして最後に娘から語られる真実、ここで驚きよりも戦慄します。
そう、本作の短編は全てまず「驚き」、そしてのちに「戦慄」をいずれも搭載しており、前者だけで終わるただのミステリーとしては閉じない作りになっている。
『柘榴』で言えば、母親目線で語られる前半部分に抱いていた家族それぞれへの気持ちが、短い短編の中で何度も揺り動かされるのがすごい。
また『関守』は、過去に何人も事故死した山奥に潜む都市伝説の話。
あるライターはそれを暴くべく、山奥にある休憩所に車を走らせ、店番である老婆に話を伺います。
舞台としてはこの二人が過去の事故について語るのみ。
この小説は横軸を時間、縦軸を「戦慄」とすると、初め平行線をたどり、ある場面で離散的にガクンと縦軸に振れるというよりは、ジワジワと正方向に旋律は上昇し始め、最終的に指数的に値が振れていくという作り。
途中である程度の結末が知れるのですが、それを分かっていながら数値を上げざるを得ず、ピークを迎える最後まで結局読まされるという感じです。
この2作は非常に面白かった。
また、他も文章でしか味わえない「驚き」と「旋律」をご披露し、全く飽きない作りとなっている点はホント見事。
ミステリーブーム真っ盛りだった過去読んでいたら間違いなく「穂信ーー!!!」なんて叫んでいたでしょうか、
ただ久々にいわゆるミステリーを読んだので、読み方を忘れてしまっていたというか、楽しみ方を忘れてしまっていたというか。。
物語それ自体にのめり込むのが遅くなってしまい、新鮮な衝撃というのはそれほどありませんでした。
それは私の反省として、小説はホント素晴らしいので万人におススメです。