『こころの処方箋』 / 河合隼雄
★ × 88
(内容紹介 )
「耐える」だけが精神力ではない。心の支えは、時にたましいの重荷になる。
――あなたが世の理不尽に拳を振りあげたくなったとき、人間関係のしがらみに泣きたくなったとき、本書に綴られた55章が、真剣に悩むこころの声の微かな震えを聴き取り、トラブルに立ち向かう秘策を与えてくれるだろう。
この、短い一章一章に込められた偉大な「常識」の力が、かならず助けになってくれるだろう。
『昔話の深層』以来2度目の、分析心理学の長・河合隼雄さんの金字塔的作品。
納得させられた章をドッグイヤーしまくっていたら、案の定ボロボロになりました笑
こういう場合振り返ってみても、結局何に最も感銘を受けたのかわからなくなる場合が多いので、今の私、そして将来の私にとって特に有益じゃないだろうかと感じた内容について書き留めておきます。
・ひとつ目は23章「心の新鉱脈を掘り当てよう」
己のエネルギーが全部で100だと決めつけ、仕事へのエネルギーを80注いだ日は、好きなことに費やすエネルギーは20以下に抑える、という意識は、私の中に根付いていると思います。
けれど本章で、この意識は徹底的に否定されました。
河合隼雄さんの言葉を借りれば「片方でエネルギーを費やすことが、かえって他の方に用いられるエネルギーの量も増加させる」らしい。
確かにこう感じる時あります。
単純な例ですが、運動後や旅行帰りに、妙に勉強や仕事が捗った経験、誰しもあると思います。
一方で、忙しくなってきたからと言って、丸一日空けておいたその週の日曜日、果たして仕事が捗った日があっただろうか、いや無い。(反語)
やりたいことがあればそれを実行し、その後で欲の無い心で作業に着手した方がよっぽど良い。
これは甘えでなく、生涯心理を追った河合さんからの言葉なので、真理として受け止めよう。
・もう一つは37章「一人でも二人、二人でも一人で生きるつもり」
本作は20年以上前に出版されていますが、この章は現在のソーシャルネットワークに疑問を呈しているようにも見えます。
「一人で生きていく、俺は」が正義と振りかざす人たちに対する河合さんからの言葉
「本当に楽しい人は、もう少し静かである。
一人の楽しさを多くの人々に見せつけている人は、本当の一人になったとき、それみに見合うだけの税金として、相当な涙を流して居られると考えていいだろう。
それもまたひとつの生き方なので、別に良し悪しは論じることもないが、ただ羨ましがる必要のないことは事実である。」
これは笑いました笑。でも確かにそう!!
けれどこの章の本質は前述の批判ではなく、ならば一人で楽しく生きていくにはどうすればよいのか、その答えを導出している点にあります。
それは、心の中に何らかのパートナーを持つこと。
これは一見、一人で生きることと矛盾しているように見えますが、ここでのパートナーとは家族や恋人に関わらず、もう一人の自分でも、なんならぬいぐるみでも良い。
ともかく「話し相手」が居ることで己を客観し、一人で生きていく。
そういう意味では、河合さんにとって一人で生きることと二人で生きることは表裏一体で、二人で生きていくことは、一人でも生きられる強さを前提としているということらしいです。
ふーむ、ふむふむ!大いに納得!!
名著と謳われるだけあって、刺さる言葉のオンパレードですが、意外だったのが先ほどの章のように、生きる楽しさに全面肯定で背中を押してくれるような内容でなく、一貫して「生きることは、大変ですよ。」と柔らかく忠告しているような構成になっていることです。
それは香山リカさんも共通することですが、職業上億千万の種類の人間に対面してきた河合隼雄さんだからこそ伝えられる言葉なんだろうと思いました。