『クラウドクラスターを愛する方法』 / 窪美澄
★ × 78
「輝くような人生の流れに乗るためのボートは、どこにあるんだろう」。誕生日を間近に控えた大晦日の朝、3年間一緒に暮らした彼が出て行った。その原因は…
デビュー作で山本周五郎賞を受賞した実力派作家が「家族」を描く、待望の第3作。表題作描き下ろし。
「ふがいない僕は空を見た」で衝撃を受け、期待100%で読んだ「晴天の迷いクジラ」にどうも納得がいかず、しばらく間の開いた窪美澄さんの3作目です。
表題作は前2作よりも大人しいというか、簡単に言えばパンチが足りません。
センセーショナルな描写ならなんでも良いとはいいませんが、少なくとも窪美澄さんの描くそれはあまりに凄過ぎました。
「ふがいない~」は言うまでもなく、「晴天~」は結末こそしっくりこなかったものの、途中の描写に完全に自己投影し、少し気分が悪くなったほど。
それほどまで絡んで離さない窪さんのイメージが少し強かったので、今回はどうしても「物足りない」と感じずにはいられませんでした。
ただ前2作と違い、本作の主人公が非常にキャラ立っていて、精神的に強いということが面白かったです。
例えば彼女は30歳まではとにかく働いて、その先に何かが見えると信じて歩いている。
彼の家に住みついて、のんびり炊事洗濯に身を投じていれば幸せな生活はある程度保障されている。
けれど彼女はその甘い蜜を舐めない。
イラストレーターとしての才は無いと悟ってはいるのに、茨の道を選択するのは母親への反骨精神からか、決して人に依りかからない。
ボロボロに傷ついた人間の心情をえぐるように描いていた著者にとっては、何か過去のイメージから新たな世界へ踏み出す1歩目のような作品なのかなぁと感じました。
けど、けどやっぱり「ふがいない~」が忘れられない…です。
なんかこういうと、非日常へトリップしたいが為に性やグロ描写を求めるハイエナのように捉えられそうですが、窪美澄さんのそれは本当にすごいんです。
未読の方は是非「ふがいない~」を手に取ってください。(最終的に本作のレビューから脱線していますが)