『存在しない小説』 / いとうせいこう
★ × 90
いま地球上のさまざまな場所で、声なき声が織りなす「存在しない小説」。はたして、「作者」は誰なのか? 「ポスト3・11の文学」として大反響を集めた前作「想像ラジオ」に続く、いとうせいこうの最新作。
久々いとうせいこうさん。
佐々木中さんの『切り取れ、あの祈る手を』でも触れましたが、難しい文章に触れた時、理解できない自分の無能さを露呈させられるようで、その恐れから、読みたくてもなかなか手をつけない著者って何人かいます。
その代表がいとうせいこうさん。
けれど読んでみると、驚愕や気づきや納得といったいろんな感情を経て、「やっぱすげえ!」となるのも確か。
本作もとにかく凄かった……!
そんじょそこらのファンタジーよりもよっぽど「文学の小宇宙」旅行へと連れてってくれるぶっ飛び作品!!やっぱすげえーー
複数の短編から成りますが、それぞれに作者と訳者がいて、それが日本人だったりなかったり、いとうせいこう自身だったりなかったりで、もう目次から既に新規性にうっとりできます。
1話目、難解かと思いつつ読み始めると、きっちりストーリー展開もありつつ楽しめた… と思いきや、各編の終わりに「編者解説」と銘打った、まさかの第三者の文章が入ってきます。
その解説で、どうやらこの小説が「存在しない小説とは存在するのか」という、禅問答のようなテーマで進んでいくものであることが分かります。
「存在しない小説」については、2話目以降で作中にも触れられ始めていき、徐々にその存在が気になっていきます。
編者はこの定義に対し、「元のテクストを失ったまま、仮に一つの翻訳のバリエーションとして存在する」小説や、「私の書かなかった私小説」が、それに該当するのではないか、といった推論を立てていきます。
そして、一見何の変哲も無い短編それぞれが、解説の前あるいは後の短編で、編者の言う「存在しない小説」の定義を具体的に示した一例であることが分かる、
言ってしまえば、極めてゲーム性の高い小説。
かつて予言者と呼ばれ、常に未来的な作品を世に送り出していた著者の、更に新たな形を提示している小説。
しかも単に出落ちじゃなく、「フツーに」面白いのだからホントすごいなと思います。
その証拠に最終話の前にある編者解説、そこで語られる「存在しない小説」の新たな推論が非常に面白くて、もうこの辺まで読むとすっかり虜なので、「あぁーなるほど!こういう存在しないバージョンもあったか〜!」と、単純に喜んでる自分がいました。笑
繋がりのない短編を読みながらも、一つの答えを求めながら進んでいく、というゲーム性を秘めた稀有な小説。頭捻りながら読みたい人にオススメ!