『愛に乱暴』 / 吉田修一
★ × 94
内容(「BOOK」データベースより)
これは私の、私たちの愛のはずだった―本当に騙したのは、妻か?夫か?やがて、読者も騙される狂乱の純愛。“家庭”にある闇奥。“独り”でいる孤絶。デビュー以来一貫して、「ひとが誰かと繋がること」を突き詰めてきた吉田修一が、かつてない強度で描く女の業火。
個人的には『横道世之介』『パレード』『パークライフ』『さよなら渓谷』『元職員』『女たちは2度遊ぶ』と、これまで6作品読んだ吉田修一さん。
非常に評判の高い『悪人』『怒り』をファイナルウェポンとして未だ読まずにとっていますが、本作で完全に心持っていかれました。
いやーーーーーー面白かった。一気読み確実!!!超おススメです。
桃子という主婦が主人公。
桃子は真守という旦那、そして旦那の母親と3人で暮らし、子どもはいない。
小説は複数の節から成っていて、各節は基本的に「ある女の日記」→「桃子目線の展開」→「桃子の日記」の順で構成されています。
「ある女」とは実は真守の浮気相手の26歳女性であり、彼女の日記は真守とのセックス描写など浮気シーンが描かれており、徐々に桃子と交わっていく様が見て取れます。
一方で桃子目線の展開からも、初めは旦那と義母、そして入院している義父との些細な日常が描かれつつも、じわじわと浮気相手の存在が炙り出されていく。
そして本作の、何よりも興味深いのがこの「炙り出し」、それは決して浮気相手の存在のみならず、桃子自体の異常性。
『パレード』を読んだ時も感じましたが、一見表立って展開されるストーリーの裏に、実は巧妙に読者を騙すプロットがパラで走っている、というのが吉田さんは本当に上手です。
本作でも桃子は至ってフツー、特筆すべき点の無い、旦那を寝取られた悲しい主婦。
けれど時間軸を追うに連れ、桃子の一挙手一投足にどこかしら矛盾が綻び、桃子の日記には句読点や段落が少なく、不自然に明るい内容が綴られていることに気づく。
そういった異常性に気づいた頃からは、もうすっかり虜でした。
しかも桃子の描き方、これは言うなれば「確信的に雑」。
例えば『向日葵の咲かない夏』の道尾秀介さんの作品なんかは、散りばめた伏線を後半でザザザーッッと潮が引くように回収していく様が圧巻で爽快でしたが、本作は桃子の異常性一つ一つに特に理由付けをしていかない。
なんとなくこうだった、なんとなくなんとなく、でコトが進む。
始めは慣れませんでしたが、読んでいくにつれ「本来人間てこんな風になんとなくだよな…」と思わされていきました。
あとは帯にもあったように、きっちり騙しの効果も盛り込まれています。
ネタばれになるので書きませんが、先程書いた「ある女」、コイツが鍵になっており、終盤に差し掛かるにつれ「なに、どゆこと?どゆこと?」という疑念からのどんでん返しがちゃんと用意されている。
ただしこの展開は個人的には、あくまで読者を引き寄せるためのフックであって、肝となるのはやはり桃子という人間性をあぶり出すことにあったのかなと感じました。
とにかく素晴らしいのと、吉田修一奥が深いという感嘆の二言です。是非どうぞ!!