『若いぼくらにできること』 / 今井雅之
★ × 83
こんなにおもしろい青春を送ったやつがいただろうか。「役者になりたい!」―自衛隊での苛酷な訓練生活、限界をためすため自らに課したマラソンやサバイバル、売れない修行時代―泣いたり、笑ったり、怒ったり、その夢だけを追いかけて、一直線に突っ走る。読むと元気がわいてくる、俳優・今井雅之の破天荒な青春記。内容(「BOOK」データベースより)
『岳物語』のレビューでも書きましたが、わたしが物心ついた頃、いわゆる読み物を楽しむ行為の入り口となったのは『岳物語』、『少年H』、そして本作です。
ただ、わたしは今井雅之さんのことを一役者としか知りませんし、この本を小さい頃に読んだのは「家にあったから」という理由だけなのですが、それでも10年以上内容を覚えているというのは、それほど昔面白く読んでいたということなのでしょう。
そう考えると、俺の本好きは本能から来る情熱なのか…なんか嬉しい。
脱線しましたがレビューすると、本作は自衛隊経験を持ち、サバイバーとして死にかけた過去もあり、それでも役者という夢を追い続けてきた今井雅之さんの自伝です。
顔が語るように男気の塊のような文章であり、1997年という時代にドロップキックをかます。
あ、そう考えると『野心のすすめ』がこの時代に売れてるのとなんかリンクする。
わたしが昔からずっと覚えていた箇所は、サバイバル時代のエピソード。
1週間山の中で過ごし、蜘蛛や腐った弁当を食っていたり、
東京から大阪まで上裸で走り、年老いた婆さんに歩いて抜かれるほど満身創痍だったというような笑える経験。
昔の私も「あほやなー」とか笑いながら読んでいた記憶があります。
ただ、なぜそんなことを自ら挑戦していたか、その理由までは覚えていませんでした。
それは「役者になりたいから」。
身に降りかかる全ての逆境は、今井さんにとって役者になるために飛び越えるべきチャンスであり、そう捉えると全ての不幸や苦しみに意味がある、という哲学を誰に教わるでもなく人知れず実践されていたのだから驚きです。
そういう情熱を若いうちから燃やしていた、そのきっかけは幼い頃に観た郷ひろみ。
片田舎の住民みんなが郷ひろみを観るが為にうねりを起こして動く、その光景を見て「俺も人を動かす人間になる!」という野心だけで、自衛隊にも入っちゃうんだからすごい。
言葉は悪いですが、すごく愚直で純粋でちょっと羨ましい。
今井さんはそういう、「夢を追う才能」みたいなものを生まれ持っていたのでしょう。
あと、ここからは再び脱線しますが、終盤に出てきた文章を読んで考えたことがあったので書き記しておきます。
本作が出たのは1997年、
テレビに出ることがイコール名前を売ることであり、どんなに演技が優れていても、後発で顔の良い女優やスポーツ選手が出てくると、役の重さはすぐ彼らに抜かれてしまう。
だから頑固一徹で貫きたくても、テレビに出るしか方法が無いのだ、というところ。
けどこれって今のテレビ離れ時代においては、徐々に通用しなくなっていますね。
一方で、素人で飲み会のコールが面白い人がいたら、ネット上で注目されいつの間にかゴールデン番組に出ていたりする。
だから本当に実力のある人はのし上がることが出来る、正に今井さんが望んだ世界になりつつあるのかなぁと呑気に思ったりしました。
更にこの先、もはや一家一台のテレビは姿を消し、都市だろうか地方だろうが「面白い奴」(ラジオで言う、いつもラジオネーム呼ばれる面白いネタ持ってるような奴)だけが湧いて出てくるような世界になれば、今井さんが毛嫌う「芸能人」の存在が無くなっていくんだろうか。
そう考えると、それはそれで逆に面白いんだろうか?
何が何でもテレビに映って売れてやる!!ていう志の持ち方が変わっていくんだろうか?
どう変わっていくのかめちゃめちゃ楽しみ。世界の移ろい見るまで当分死ねない。