『ワーカーズ・ダイジェスト』 / 津村記久子
★ × 98
1回目のレビューということで何にしようか迷いましたが、ブログのタイトルもインスパイアされた、やはりこの作品にします。
32歳は、欲望も希望も薄れていく年だった。けれど、きっと悪いことばかりじゃない。重信:東京の建設会社に勤める。奈加子:大阪のデザイン事務所に勤め、副業でライターの仕事をこなす。偶然出会った2人は、年齢も、苗字も、誕生日まで同じ。肉体的にも精神的にもさまざまな災難がふりかかる32歳の1年間、ふたりは別々に、けれどどこかで繋がりを感じながら生きていく―。頑張るあなたに贈る、遠距離“共感”物語。
(「BOOK」データベースより)
個人的には初の津村作品でした。
手に取ったきっかけはro69にブログを書いていた兵庫慎司さんが記事で絶賛していたから。
物語は何の起伏も無いライフサイクルを描いただけですが、そこにある圧倒的なリアリティに完全に打ちのめされました。
例えば
・主人公が起きて会社に向かうまでの描写
・主人公二人が大阪駅のカレー屋(おそらくサンマルコ?)でカレーを食べる描写
もう上記2シーンが悶えるほど好きなんです。
上手く表現できるか分かりませんが…
例えば日常において「怒ってる」「泣いてる」こう言った大きな感情が生まれている最中って、
実際それだけじゃなく、「あっ壁にシミがある」とか「泣いたの久しぶりだ」とか
それら支配的な感情以外の思考も、一瞬ですが生まれては消えてると思います。
本作はその一瞬の思考を無理なく無駄に書いてるから、ホントにリアルタイムで見させられている錯覚に至る。
その思考の移り変わり、「あぁ~あるある」といった、読んでる側の日常に投影できる場面が多々あるから、
何の起伏の無いストーリーでも、細部までじっくり集中して読んじゃいます。
あと言葉は悪いですが、こういった平坦な小説を楽しめるモードの時って、大概自分の心に余裕がある時です。笑
なので逆説的に言えば、こういう小説を楽しめている時、「あぁ。俺は今余裕がある」と確認できて嬉しくなります。
個人的には初の津村作品でしたが、これが「とにかくうちへ帰ります」や「アレグリアとは仕事はできない」だった場合、それらがマイベストになっていたかもしれません。
それ程作品ごとにあまり大きな差異が無い津村作品ですが、それは物凄い高いレベルの世界での差異です。
とにかく今一番好きな作家の、一番好きな作品がこれ。