計画と無計画のあいだ---「自由が丘のほがらかな出版社」の話
- 作者: 三島邦弘
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/10/14
- メディア: 単行本
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『計画と無計画のあいだ』 / 三島邦弘
★ × 83
内容(「BOOK」データベースより)
原点回帰の出版社・ミシマ社。単身起業後から、現在に至る5年間のエピソードをつづる。
『善き書店員』で知ったミシマ社という出版社の社長が著書の経営本です。
経営本だと言ってしまうと暑苦しいけれど、三島さんがなぜ傾いた業界であえて会社を立ち上げ、そして極貧な苦労を重ねてここまできたか、がフワッと描かれています。
そこには『不格好経営』の南場さん同様、社員への愛が実名で書かれている。
創業者だからこそ書ける、「始まり」における苦しみとそれ以上の歓びは、読んでいて元気が出ました。
著者はもともと名門大学を卒業し、大手出版社に就職したエリート。
けれど自身のことを「バラバラだった」と振り返るように、社会との折り合いがつかず、不器用に生きていく日々を過ごす中で、
あるとき突然「出版社をつくろう」と心に過ったが最後、それまでの曇天が嘘のように晴れ、それからは狂ったように夢の実現に努力重ねてきた、というエピソードが描かれています。
ただそこは古き悪き慣習を持つ出版業界、新しい存在に対する風当たりは冷たく、会社としてはあり得ない程乏しい資産で闘っていくしかなかった設立当時の情況なども紹介されています。
『書店ガール3』を読んだとき初めて知った「取次」という独特の出版システムに対し、
ミシマさんは手売りを繰り返すことで、凝り固まった業界に風穴を開けていきます。
また、DIY溢れるシオリやハガキを挿入することで、ミシマ社のアピールにも成功している。
確かに私が『善き書店員』を購入した際も、手書きのハガキを読んで「この出版社なんだ?」と気になったことを覚えています。
実はその成功の裏にはキムラさんという元POP職人の為せる技があったことなども明かされており、肌で感じていたこの出版社の抜け感を実名で再確認できることも本書の良さです。
終盤は、ミシマ社が線表も売り上げ計画も引かず、新刊が売れなきゃ終わり!という崖っぷち経営が続いたこと、
そしてその状況をどう変えていったかが中心に書かれており、ここは少し精神論に寄った文章が続くので、少し飽きてしまいました。
けれど1日のうち2時間、一切パソコンに触れない時間を設ける等、紙媒体を生業とする出版社ならではの形態が紹介されており、そこは他業界にも応用できそうな気がします。
(実は個人的に、1日30分程度紙媒体のみで仕事する時間を作ってみました…今週から)
ハガキやシオリから連想する社風、そして経営者のイメージそのものが本書から滲み出ていました。
これからも面白い本をバンバン出してほしいなーと思います。