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内容(「BOOK」データベースより)
今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。
「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて―。
日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。
未だ『ノルウェイの森』以外読んだことがなく、『ノルウェイ~』が決して面白くなかったわけではないのに何となく読まずにきてしまった村上春樹さんですが、
先日ハルキストの友人に村上作品の読み方を学び、興味が湧いたので本作を買いました。
彼が本作をプッシュする理由は
・ 大切な女性を失うこと
・キレイなものをキレイなままパッケージしておくこと
という、村上春樹さんがもっとも得意とする上記2つの描写が入っているからとのこと。
これらを美味しく味わうことができたらば、私もめでたくハルキストの仲間入りです。
本作を一言で言うなれば…まあ、「不倫物語」。
指輪にまつわる作品を「指輪物語」と呼んだのだから、不倫にまつわる作品は「不倫物語」。
それくらい、ズドンッ、とド直球の不倫話です。
主人公ハジメは小学校時代に恋をした「島本さん」という脚の悪い女性が忘れられず、結婚に娘を持ち30を過ぎても虚無を抱いて生きている。
そんな中、経営するバーに島本さんが当時の美しさそのままに年を食った姿で現れ、ハジメの心は一気に乱されてしまう。
間違いなく幸せであると自他共に認め、妻を愛し娘を愛しているのに、ハジメは島本さんと生きる決心を固め、二人で箱根に飛んでいく。
箱根で初めて二人は肌を重ねるが、次の朝島本さんは姿を消し、ハジメは気が狂う。
これが本作で描かれている不倫の全貌です。
ストーリーはさておき、まず、文章が恐ろしく読みやすいです。
文学的な比喩もなく、極めて一般的な文体で書かれているため、文章そのものからは特別村上春樹臭を感じないまま読めました。
唯一感じるとするならば、若干多めの性描写。
小中学生時代のハジメから描かれる童貞の意味でのそれらならいいんですが、彼が青年となり成人となったあとでもセックス描写が続くので、そこにはあまり意味が見い出せなかったです。
性描写も含め、彼が語る酒や車や服装にちょびっとイラッとさせられたりして、庶民が少し背伸びしたような小説であるなと感じました。
本作が出た1995年というバブル終焉後に、ハジメのように未だスタイリッシュに生きる男に憧れる、というタイムリーさでは面白かったかもしれませんが、
現代に読むとどうも白けてしまったのは否めないのでしょうか。。
あと、あまりにも恋愛に依存し過ぎな登場人物たちに、感情移入するというよりは一種のファンタジーを見ているようで、どうものめりこめなかったのも事実。
『世界の中心で愛を叫ぶ』という小説で、主人公朔太郎は17年越しの想いをオーストラリアでばらまいていましたが、本作に出てくるハジメ、島本さん、そしてハジメの初体験の相手であるイズミ、
3人が3人、朔太郎を凌駕する恋愛ジャンキーっぷりで、何とも世界は平和なのか不幸なのか分からなくなりそうでした笑
うーん批判ばっかりになってしまいましたが、『ノルウェイ~』同様、非常に読みやすいという点は良かったです。
ハルキストには未だ遠く及びませんが、今度は恋愛以外の村上春樹に触れたいという思いが強くなりました。
おススメがあればぜひ教えてください。