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内容紹介
アフリカ大陸の東端に広がる“世界一危険な地"ソマリア。 そこには、民主国家ソマリランドと海賊国家プントランド、内戦が続く南部ソマリアがひしめきあい、 現代のテクノロジーと氏族社会の伝統が融合した摩訶不思議なソマリ社会が広がっていた。 西欧民主主義国家とは全く異なる価値観で生きる世界最大の秘境民族=ソマリ人に夢中になった著者は、ベテランジャーナリストの ワイヤッブやケーブルTV局の支局長を勤める剛腕美女ハムディらに導かれ、秘境のさらに奥深くへと足を踏み入れていく。 ある時はソマリランド初の広告代理店開業を夢想。 ある時は外国人男子にとって最大の秘境である一般家庭の台所へ潜入し、女子たちの家庭料理作りと美白トークに仲間入り。 ある時は紛争地帯に迷い込み、銃撃戦に巻きこまれ……。 もっと知りたい、近づきたい。その一心で台所から戦場まであらゆる場所に飛び込んだ、前人未到の片想い暴走ノンフィクション。
「あれ?この本って去年くらいに並んでなかったっけ?」
ソマリランドはアフリカにある共和制国家で、事実上は独立国家として機能しているますが、国家として承認されていないそう。
外務省によると、国の安全レベルを示す色分けでは、全エリアが「退避勧告レベル」の真赤に染まっており、無政府状態が長年続く「リアル北斗の拳」との呼び名に相応しい最恐国だそうです。
『謎の~』は読んでいないのでわかりませんが、ソマリランドの一般知識や滞在方法ハウツー、そして初めて現地人と触れた体験について描かれているようで、
本作は著者がそれらの魅力にすっかり憑りつかれ、より深く掘ったソマリア体験をしたい!という欲を行動に移した結果が描かれています。
勿論ルポルタージュではありますが、著者自身の哲学も多く盛り込まれている点が一つの魅力です。
私がとても感銘を受けた点として、下記のような言葉がありました。
30年近く世界の各地を歩いてきた経験から、 人間集団を形作る内面的な三大要素は「言語」「料理」「音楽(踊りを含む)」ではないかと思うようになってきた。
事実、高野さんは早稲田大のソマリ人にソマリ語を学び、ソマリ現地人の女性に料理を教わり、空気感に溶け込んでいく。
また音楽について調べていくうち、ソマリ人は和カモを含め誰も西洋の音楽を聴かないことに気づき、どうやらソマリ人は行動は超・外向きにも関わらず、思考や感覚が超・内向きであることが分かります。
三大要素から派生して、国間・氏族間の様々な違いがあらわになっていく。
私なんか偏見の塊ですから、アメリカ人はハンバーガーを食べて自己主張し続ける人しかいないと思っているし、アフリカ人はほぼ全裸の格好で音楽に合わせて年中踊っていると思っている。
こういった、NAVERのように「この人々はこうだ」と一括りに纏められた像(例えばメディアによって造られたもの)のみを見て、あたかも全て理解した気になっていることが私にはたくさんあります。
けれどアメリカにだって鬱で自殺する人はいるし、アフリカ人だって(本作に出てくるように)美白に非常にナイーブだったりする。
ジャーナリズムの正義がここんところ問われていますが、こうやって現地の温度みたいなものを、私のようなぬくぬく市民にまで届けてくれるという”正義”は、やはり尊敬すべき素晴らしい職業だなと思いました。
本作の多くの場面で、高野さんは現地のジャーナリストたちと行動を共にしています。
高野さんの文章が非常に上手いかなのかもしれませんが、「リアル北斗の拳」「退避勧告レベル」という脅し文句が並ぶ地域にしては、人びとの和気あいあいとして雰囲気が伝わってくるようで、少し楽しそうだなという気配さえ感じ取れます。
ソマリ人が、私の持つ偏見に決して当てはまらない(意外に繊細でプライドが高く、物乞いなどは絶対しない。ただし金は別(笑))など、新しい発見がいくつも出てくるところは、高野さんが如何に現地に溶け込んでいるかを表しています。
ジャーナリストたちだってそう、命の危険と隣り合わせの生活とは言え、キャッキャと楽しそうにしている姿がとても微笑ましく、「無法地帯とはいえ、やはり偏見はいけないな」と感じさせてくれました。
けれど第4章のラスト、ここでこれまで流れる空気を一変させるシーンが矢継ぎ早に続き、頭を金づちでカーンと殴られた気持ちになりました。
しかもこれが映画や小説のような決められたどんでん返しでなく、この地球で実際に起こった出来事を文字で起こしただけであることが、余計に衝撃でした。
このシーンがあるからこそ、ジャーナリストのハムディやザクリヤ達との生活が浮き彫りになるのだなぁと降り返させられました。
第4章の締めくくり方は、ここ最近読んだどんな小説よりもエンタテイメント性があるというか、単なるルポルタージュとは思えない崇高さを含んでいました。
非常に読みやすい(その分、危険ですが)ので、万人にお勧めしたい本です。
買って損なし!