『疲れすぎて眠れぬ夜のために』 / 内田樹
★ × 85
内容(「BOOK」データベースより)
疲れるのは健全である徴。病気になるのは生きている証。サクセスモデルへの幻想を棄てて、「1ランク下の自分」を目指しませんか?ささやかなことで「幸せ」になれるのは一つの能力です。まずは身体の内側から発信される信号を聴き取ること。真の利己主義を目指すこと。礼儀作法と型で身を守ること。家族の愛情至上主義をやめること―。今最も信頼できる哲学者が、日本人の身体文化の原点に立ち帰って提案する、最強の幸福論。
『14歳の子を持つ親たちへ』以来、久しぶりの内田先生。
少しかったるいタイトルはアレですが、普段常識と捉えて気にもとめないような事実に着眼し、実はそれは歪でおかしいということを柔らかく説く、いつもの内田先生の文章です。
「若い人たちはこう考えてるだろうけど、それはこういった理由から間違っているんだよ」と、柔らかくも訓示チックに仕上がっているのは先生ならではだと思いますが、押し付けがましくなく、且つキッチリ知的好奇心を刺激するような内容を紹介してくれるので、どんな人にとっても読みやすいと思います。
個人的に面白かったのは「制度」と「自由」の話。
「自由であればクリエイテビティが涌く。規則や制度に縛られない世界で俺は行く。」というベンチャー気質な考え方に触れると、大して意味もなさそうなルールに従ってしまっている自分がちょっぴり情けなくなるときがありますが、内田先生に言わせると「制約を受けた方が創作意欲が涌く」そうな。
夏目漱石の『こころ』『それから』は、新聞連載という毎回オチをつけなければならないという制約の中で生まれている。
坂口恭平さんは『独立国家のつくりかた』で、社会のルールを完璧に理解した上で、その盲点を付く移動型ハウスを考案して唯一無二となっている。
そう考えると、ルーチンの中で如何に図抜けた発送転換するかってことが今求められていて、実際私自身が業務において考えていかなきゃならんなぁと戒められました。
ただ、そういった制度下から飛び出る程の能力と根気を、全ての人に求めるのは厳しいでしょう先生!と意義唱えたくもなりますが、少なくともモチベーションだけは持ってなければ腐ってしまうのは確か。
あと、「同じであること」の難しさと重要性。
大瀧詠一も橋本治も高橋源一郎も山下達郎も、出す作品全て似たようなモノで、けれどそれが何十年も味が出て飽きもせず愛されるということが如何にすごいか、そこを強調されてます。
著者は「即座に解決すべき問題と、じわじわ解決されるべき問題がある」といった提唱の多い、まあ明らかな保守派。
だから橋下さんとも対立してしまうのでしょうし、このご時世に老人がクドクド語ってんじゃねえ!と批判の的になってしまうのも分かります。
このヌルさ静けさに浸ってばかりじゃままならんとも分かります。
けれどこうやって内田さんの文章を読むと、やっぱり言語能力が非常に高く聡明で、こういった意見も己の中で咀嚼していかなきゃダメだなと感じました。