『太陽・惑星』 / 上田岳弘
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内容(「BOOK」データベースより)
アフリカの赤ちゃん工場、新宿のデリヘル、パリの蚤の市、インドの湖畔。地球上の様々な出来事が交錯し、飽くなき欲望の果て不老不死を実現した人類が、考えうるすべての経験をし尽くしたとき、太陽による錬金術が完成した。三島賞選考会を沸かせた新潮新人賞受賞作「太陽」と、対をなす衝撃作「惑星」からなるデビュー小説集!
初の作家、上田岳弘さん。
『太陽』『惑星』の2編から成る中編小説です。
『太陽』では複数人の男女が、おそらくですが1000年程度時代を往き来しながら壮大な物語が展開しています。
容貌、頭脳、肉体の三つの基礎パラメータが全く同じという、一世紀当たり一、二組しか現れない組み合わせの二人が、1km足らずの距離に近づいている。基礎パラメータが全く同じ二人が一枚の写真に収まるとは、これは天文学的な確率であり、奇跡といっても過言ではない。しかし、未だパラメータによって個人を判定する術をもたない人々には、それがどれだけ希有であるのかを認識することができない。
ただ偶然複数人が一同に介したそれだけのことをクドクド語るのに「うるせえよ」と言いたくなる笑
けどそのツッコミは何故かニヤニヤしながらで、決して呆れて飽きたことによるものではないというのがすごいと思います。
文字を追う喜びみたいなものは個人的に円城塔さんの『これはペンです』を読んだとき初めて味わいましたが、こういった楽しみができるのは心に余裕がある時なので嬉しいです笑
『惑星』でも前編のノリで、いやむしろノリは加速し、「最終製品」「最強人間」「肉の海」「よきこと」といった、
一見して中二病としか思えない用語設定が頻発します。
設定は2014年から2020年の東京オリンピックまでなので前編より時間軸こそ縮まれど、本編では記憶の容量を5年に限定するといった、遠くない未来だからこそ予想できてしまう中二病の世界が広がっているので余計ニヤニヤしてしまう。
ただ、単に空論を理論武装しているだけでなく、興味深い論もたくさんありました。
例えば産業革命からなぞる社会発展と行く末。
PCが普及し多くの処理が自動化された今は、社会人を評価する上で企画力や統率力、独創性が高等とされる。
やがてこれらもノウハウ化されると、やがて個人の価値の判定は「いかに誰にも共感され得ないか」が一つの尺度になる、という結論。
それが筆者に言わせると2020年頃の世界らしいです。
こういったありそうでなさそうな、けれどクドクドとギリ理解できる文章で読ませてくるから思わずほぉ~と頷きたくなります。
小説としてプロットから心沸くものが得られるかと言ったらNoですが、読み物として文字自体を愉しむことが好きな人は後編の方がより興味深いと思います。
とにかく新感覚、好き嫌いバッサリ別れるでしょうが、だらだらした論理的無意味的思考は全理系男子必見と思います!