『困ってるひと』 / 大野更紗
★ × 90
内容(「BOOK」データベースより)
ビルマ難民を研究していた大学院生女子が、ある日突然、原因不明の難病を発症。自らが「難民」となり、日本社会をサバイブするはめになる。想像を絶する過酷な状況を、澄んだ視点と命がけのユーモアをもって描き、エンターテイメントとして結実させた類い稀なエッセイ。
読む本が無くなったときは、読んだ当初は良さが分からなかったものの、その後も良いと言う評判ばかり耳にする本をもう一度読んで咀嚼します。
わたしの本棚にある『晴天の迷いクジラ』『20歳の時に知っておきたかったこと』などがそれにあたり、いつかもう一度読まなければと心の片隅に置いています。
本書も、話題となった2年前に購入したもののイマイチ心に響かず、けれど以降も著者の名前を度々目にし耳にして、いつか必ず読み返さねば!と常々思っていて、2年ぶりにようやく実行しました。
(2年前のレビューはこちら)
著者の大野さんは大学時代にビルマ難民に興味を抱き、民主化運動、NGO運動に尽力します。
そんな折、ふと体の不調を感じてからはあっという間に全身に異常が発生し、全く原因が分からないまま難病患者として入院するに至ります。
つまり、「援助する側」から「援助される側」へと早変わりする、数奇な運命を辿っているのです。
1回目読んだ時は、「お尻が流れ出る」「筋肉を切り取る」など、かつて聞いたことのない症状や治療法の紹介の印象が大きく、本書のコピーとしてよく書かれているエンタテイメント性は確かに感じたものの、心から人に薦めたいとまでは思えなかったのが事実。
けれど内容を把握して2回目読んだ今、心に残ったのは「援助」についての大野さんの経験や哲学でした。
彼女は援助を受ける側になった当時、かつての友人にお見舞のついでに日用品などの購入を度々頼んでいました。
「なんでも言ってね」という、その時は確かに心から発されたその友人の言葉を信じ、苦しい自分を楯に彼らに依存していました。
けれどある日、友人にこう告げられます。
「みんなの重荷になっている」
そこで彼女は、自分を守るのは自分しかいないということを悟ります。
また、彼女は同じく難病の男性と恋に落ち、1度だけデートに行くため、普段は決して履かない(というか履けない)タイツを看護師に履かせてもらい、出かけました。
しかし、その日病院へ帰った後、医師や看護師たちが、人の手を借りてでもタイツを履いて浮かれていた自分のことをネタにしているのを耳にしてしまいます。
この時も彼女は、この世の中で本当に自分が孤独であることを自覚します。
ただ彼女の何よりもすごいのが、こんなにもやるせない経験をしても尚、気持ちが負の方向に向かず――いや、ところどころ自殺を考えた描写も挟まれていますが――、「親にも医者にも誰にも自分の未来への道が見えないのであれば、私が切り開いていくしかない」とい正のベクトル、具体的には自ら転居の手続きをし、病院を抜け出して一人暮らしをしたりする方へ向かっていることです。
例えば私が仕事でうまくいかず、私の心の大部分がその悩みで充満している時、彼女にとってはその充満が、外出して決して紫外線を浴びないようにしなければだったり、瓶の蓋が開けられないだったり、段ボールを取りにいくだけで全身が震えるほど疲弊したりする、といった悩みだったりします。
語弊を恐れず言えば、彼女は常人に対してあまりに出来ることが限られている。
だからその一方で、自分ができることを全力で、文字通り命を懸けて実行している。
その彼女のエピソードを読んで、彼女よりは出来ることが多い私のような人間が少し恥ずかしくなり、勇気を貰ったりしているから、本書は広く読まれているんだろうなぁと思います。
とは言ったものの、やはり治療の描写がどうしても苦しいので、初めて読む方には刺激が強すぎるのかもしれません。
けれど、2回読んだ私が言えるのは、「2回読め!」ということです。
それだけ、評価されるだけ生きる為の色々が詰まっている作品です。