『戸村飯店 青春100連発』 / 瀬尾まいこ
★ × 88
(内容紹介)
大阪の下町にある中華料理店・戸村飯店。この店の息子たちは、性格も外見も正反対で仲が悪い。高3の長男・ヘイスケは、昔から要領が良く、頭もいいイケメン。しかし地元の空気が苦手で、高校卒業後は東京の専門学校に通う準備をしていた。一方、高2の次男・コウスケは勉強が苦手。単純でやや短気だが、誰からも愛される明朗快活な野球部員。近所に住む同級生・岡野に思いを寄せながら、卒業後は店を継ぐつもりでいた。
春になり、東京に出てきたヘイスケは、カフェでバイトをしながら新生活をはじめる。一方コウスケは、最後の高校生活を謳歌するため、部活引退後も合唱祭の指揮者に立候補したり、岡野のことを考えたり、忙しい日々を送っていた。ところが冬のある日、コウスケの人生を左右する大問題が現れて……。
ハードカバーで読んだのが7年前、アンソロジーの『Re-born』で簡略版を読んだのが 3年前ですが、後半のストーリーはほとんど忘れていました。
この数年で読む本の嗜好は変わりましたが、今読んでも当時感じた瑞々しさそのままパッケージされており、瀬尾まいこさんの素晴らしさを改めて感じました。
主人公は戸村飯店という中華料理屋を営む家の息子である兄のヘイスケと弟のコウスケ。
関西の下町にズブズブのコウスケとは対照的に、そのスモールワールドに馴染めず、高校卒業後はすぐ東京に出てきたヘイスケにどちらかと言えばフォーカスを当てられています。
ヘイスケにとって地元はずっと重荷でしたが、そのことを表に出さないよう中学生ながらに折り合いをつけつつも、
弟のコウスケにはその「ズレ」が分かってしまいます。
親子だから兄弟だからって、好きなものが一緒というわけではない。折り合いが合わないものも、波長の違いもある。自分の生まれた場所に、自分が存在する場所に、違和感を覚えるのはどんな感じだろう。
絶対的な存在であるはずのホームにズレを生じた、その感覚は、コウスケ同様地元ズブズブの私からすると想像し難いです。
生きる術、溶け込む術を身につけたヘイスケだからこそ自然に為せる技ですが、ともすれば非行に走りそうなもの。この辺り、元先生である瀬尾さんならではのメッセージ性を感じました。
そんなヘイスケは東京でアルバイトしながら手際よくやっていくのですが、
地元で浮いていたヘイスケが、知らず知らずのうちに地元で培ってたセンスを要所要所で発揮してしまっているのがなんとも憎い!
味付けや、笑いのセンスや、広く浅く人と付き合う癖。
敵だったハズの地元が自分の体内から表皮に滲み出す。
どうしようもない性、そこにヘイスケが気づいた終盤、ヘイスケはある決意をします。ここで物語は終わり。
瀬尾まいこさんには珍しく、大きな不幸が登場人物を襲わない分アップダウンも小さめですが、繰り返し積み重ねてきた毎日の意味を浮き彫りにしてくれる、非常にスッと染み込む小説です。
『おしまいのデート』以降自分のなかで止まっている瀬尾さん作品を、この年になって再び追いかけようか…