『雨のなまえ』 / 窪美澄
★ × 84
内容(「BOOK」データベースより)
妻の妊娠中、逃げるように浮気をする男。パート先のアルバイト学生に焦がれる中年の主婦。不釣り合いな美しい女と結婚したサラリーマン。幼なじみの少女の死を引きずり続ける中学教師。まだ小さな息子とふたりで生きることを決めた女。満たされない思い。逃げ出したくなるような現実。殺伐としたこの日常を生きるすべての人に―。いまエンタメ界最注目の著者が描く、ヒリヒリするほど生々しい五人の物語。
『ふがいない僕は空を見た』『晴天の迷いクジラ』『クラウドクラスターを愛する方法』以来、個人的に4作目の窪美澄さん。
前半2作、特に『ふがいない~』は映画含め本当に素晴らしく、それまで官能小説の存在意義って単なる興奮剤としか思えなかったのが、性描写によって登場人物の人間性を浮き彫りにすることができるんだということをこの小説で気付かされました。
ただとにかく心情描写が巧すぎて、心が軽い時に読まないと気持ちが削られるという難点があって、中途半端に手に取れないというのも著者の特徴です。
本作、『雨のなまえ』。
前述で危惧した通り、短編集ながら全て重たく、どんよりした気持ちになりました。。
ただ、ここまで持って行かせるのは本当に文章力の高い作家なんだろうなぁと感心します。
性描写とバッドエンドが続く中、唯一光が射したのは5章、『あたたかい雨の降水過程』。
シングルマザーの話ですが、離婚の原因はDVや浮気などでなく、こどもが生まれてから急に旦那といるのが苦痛になった、というもの。
正直理不尽だし、異性からすれば愛する妻も息子も取られて絶望するしかねえよ、おいとツッコみたくなる理由です。
けれど彼女はその道を選び、シングルという世の中的にハンデとされる立場となって、事実親子関係・親トモ関係・そして仕事や生活に苦しみながら日々を過ごしている。
途中、息子との関係もうまくいかず、理不尽な己に嫌気がさすシーンがあったのち、主人公は職場で震災に遭う。
息子を心配し、混乱の中児童学校に向かうのですが、息子はいつもお世話になっている友達の家に避難していた。
息子は帰ってきた母親を見て涙を流す(この涙がタイトルにある「あたたかい雨」に当たると思われます)、そして物語はエンド。
と、読んだ人はわかると思いますが、別に何も解決していない。
旦那との離婚裁判、息子との関係性、親トモとの関係性、別に何も変わっていないし、言葉を悪くすれば震災でなんかいろいろチャラになって有耶無耶、ままよ、という感じで終わっている、
これのどこが光射す終わり方なんだ!と言ってしまいそうですが、
前述のようにまあとにかく全編暗いので、絶対比でなく相対比、「窪美澄比」で考えた場合に、5章は光の入り具合が強めだったかな、ということを言っています。笑
なので決して、5章も明るいわけではありません。
心に余裕があるときにどうぞ。心情描写が巧すぎる点は本当に感嘆します。
ただ、欲を言えば不倫や自殺やシングルマザーでない、もう少しゆるい設定の時に窪さんがどう描くかを見たいなぁという感じ。