- 作者: 綿矢りさ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/08/27
- メディア: 単行本
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『勝手にふるえてろ』 / 綿矢りさ
★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
江藤良香、26歳。中学時代の同級生への片思い以外恋愛経験ナシ。おたく期が長かったせいで現実世界にうまく順応できないヨシカだったが、熱烈に愛してくる彼が出現!理想と現実のはざまで揺れ動くヨシカは時に悩み、時に暴走しながら現実の扉を開けてゆく。妄想力爆発のキュートな恋愛小説が待望の文庫化。
綿矢りささん。
『インストール』以来何年ぶりか分からないですが、いや別にこれまで読んでこなかったことに特に理由はなく、ただ機会に恵まれなかっただけなのですが、
サイコーに面白かった!!いやーーセンスあるなぁ!!
主人公江藤の周囲には、二人の男の存在がある。
一人は「イチ」くん、学生時代からずっと片想いで、久々の同窓会で会っても彼の一挙手一投足から目が離せないほどやっぱり好きな存在。
もう一人は「二」くん、江藤の職場にいる男で、江藤に恋心を寄せ、しつこく誘ってくる被・片想いの存在。
そんな二人の男と、26歳バージンで元オタクの江藤との物語です。
紹介の通り江藤は女版『モテキ!』とでも呼ぶべき、所謂イタい女子で、
わたしが大好きな「イタ女小説」、田辺聖子や川上未映子や西加奈子等々の作品群に並ぶようなジャンルで、まず惹かれました。
こういった作品に特徴的なのが、もう一人の主人公が、表向きの自分とは違う小さな裏の自分を持ち、後者がひたすら悪態付く姿。
本作ではその悪態が非常ーーっに秀逸!何度も吹きそうになりました。
特に面白いのが二に対するソレ。
二は、イメージですが(良いように呼べば)さまーずの三村さんのようなオトボケで、男性経験のない江藤にとっては恋愛に対するロマンも臆病さもないただの男に映っています。
だから二のイチイチが癪に触り、表と逆の感情を常に裏で抱いている。
【望み通りの相づちを返してあげたのに即座に打ち消してくる人、あと企画のことをかっこつけてプロジェクトと呼ぶ人は私は嫌いです。】
反対にイチに対しては、今度は江藤が二の役回り、つまりイチを追いかける構図となっています。
江藤がイタイのは、己が追いかけられる立場の時は、追いかける立場にいる者の杜撰さや過剰な意識に繊細なのに、いざ己が追いかける立場になったとき、それに全く気付いてないところです。
だから本作では描かれていないけれど、もしこの物語がイチの立場から語られたのならば、そのときの江藤って物凄く残念に描かれる(か、或いはそもそも江藤のことなんて何とも描かれない)んだろうなぁと想像しました。
なんかその辺の妄想女子感、処女感ってのが限りなく切ないのだけれど、それ以上に爽快!っていう、正に『モテキ!』や森見登美彦さんの作品を読んだときと同じような感情を抱きました。
ほんでもうひとつ良いのが、イタ女小説をイタ小説で終わらせない著者のテクニック。
少しだけネタバレすると、途中江藤はイチもニも、ついでに親友も職も失います。
失って初めて、それまでの自分を俯瞰したときの愚かさにに気づきます。
小説としてはシニカルさがテンポよく面白かったのですが、終盤あたりのこれら描写で、物語に重みみたいのが掛けられており、
そして最後はなかなか濃い純度のラブストーリー!で締めるっていう構成になってます。
単純に面白さだけで真っ向から勝負できるはずですが、キッチリ落としてくるあたりも巧いなぁと感心しました。
いやーーもっと読まなきゃ!!