- 作者: 津村記久子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/02/02
- メディア: 単行本
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『カソウスキの行方』 / 津村記久子
★ × 87
内容(「BOOK」データベースより)
不倫バカップルのせいで、郊外の倉庫に左遷されたイリエ。28歳、独身、彼氏なし。やりきれない毎日から逃れるため、同僚の森川を好きになったと仮定してみる。でも本当は、恋愛がしたいわけじゃない。強がっているわけでもない。奇妙な「仮想好き」が迎える結末は―。芥川賞作家が贈る、恋愛“しない”小説。
2008年出版の作品。
これでエッセイ以外の津村ワークスを一通り読み終えたことになります。
横山秀夫さん以来だなぁ、一人の著者が出した小説を全て読んだというのは。
全くのオナニーだけれど何となく嬉しい、あとは本人にお会いするのが夢!
『カソウスキの行方』『Everyday I Write A Book』『花婿のハムラビ経典』の全3編。
表題作は、不当な理由で本社から異動をくらい、つまらない職場で日々働くイリエという女性が主人公。
イリエは職場から近いと理由で友人の家に転がり込んでいましたが、その友人も結婚することとなり、暖房のない極寒のアパートで独り暮らしを始めます。
インフルエンザになっても一人、夜中に震えながら眠る日々。色恋沙汰も一切ない28歳。
そんな日常に自分なりに色を付けようと、職場の同僚の男性を「仮想好き(彼を好きであると仮定する)」になろうとします。
そうやって己を騙し、彼にアプローチしてみたりする過程で、徐々に日常を楽しんでいくイリエの姿を描いた話。
『ポトスライムの舟』がまんま乗り移ったかのような、津村記久子を知りたい!と思うひとならばまずこれを読んどけと謂わんばかりの王道作品です。
鬱々とした日々を暮らす女性が、自分の心の大半を占めるその鬱々とは別に、笑えるほど小さいけど確かに幸せなものを一つ一つ味わっていくという人間味。
本作だって、ある男性を好きであると仮定する、なんてバカげた発想一つが、その後の生活に良い変化をもたらしていくなんて最高じゃないすか。
「こんなもんだろ、人生って」という説得力が素晴らしい!
6年も前の津村作品ですが、近年と変わらず幸せをもたらしてくれる素晴らしい物語でした。
んで個人的に最も好きだったのは3編目『花婿のハムラビ経典』。
彼女と紆余曲折を経て、何とか結婚式当日を迎えた花婿が主人公。
物語の初めと終わり以外は花婿と花嫁の過去のエピソードが中心で、花嫁というのが、しょっちゅう予定をすっぽかす、けれど飄々と明るい女性。
二人のエピソードは結構暗めで重いのですが、物語の最後に出てくる、花婿と、花嫁の妹の二人のシーンが何とも面白い。
や、改めて文字にすると野暮ったいので書きませんが、ざっくり言うと、花嫁の妹はうっすら乳首の形が分かる緩めの服を着てるんですね。
そこに気づいた花婿は、花嫁とのあるエピソードを思い出すのですが、その描写がまあ可愛らしい。
それまでなかなかに重たい関係を続けていた二人だったので、読んでいる側としては「コイツら大丈夫かよ」と訝ってしまっていたのですが、
最後の可愛い描写により、一気に安心させてもらうという経験をしました。
これも表題作同様、(というか全ての津村作品同様)小さな幸せの積み重ねが如何に重要であるか訴えかけてきますが、最後の最後に読後感を全部請け負ってスカッとさせてくれるような構成になってて、1冊の短編集として完璧だなぁと惚れ惚れしました。
いやぁー今も昔も津村さんには感動させられます。。