『サラバ!上』 / 西加奈子
★ × 93
内容(「BOOK」データベースより)
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。
西加奈子さん最新作、作家生活10周年の記念碑的作品です。
先週本作のトークショー&サイン会に行ったので、そこでの話をまず少し。
著者である西加奈子さんはもともとイランで育ったという、どんな人でも取っつきやすいエピソードをがあることについてお話しされていました。
そしてそれが独り歩きして、読者はこのバックボーンを以て作品を観賞せざるを得ないと。
これに対し西さんは、読書とはそんなものではなく、作中の風景、人物に自分を入り込ませてトリップし、もう一人の自分を生きることが読書だと言っていました。
私自身『ふくわらい』や『円卓』を読んだとき、「なんでこんなにのめり込めるんだ?」といういい意味での違和感があって、読後後追いで「そういえば著者は西加奈子だったな」と感じるような経験がありましたが、
それは著者の確信的技法だったことが分かりました。
そして本作、上下ぶっとい『サラバ!』は、そんな思想の著者の10年を詰め込んだ、ロジックでない感性の賜物であることもおっしゃっていて、金欠構わず購入し、下手ウマな似顔絵と共にサインも戴きました。
長くなりましたが以後、上巻のみのレビューを。
超面白いです!エンタテイメンッ!あと半分あるの嬉しいわ!
圷歩(あくつ あゆむ)という男の子の生涯を追った物語。全て圷くん目線で展開します。
彼には物静かな父、精神年齢の母、キテレツで宗教家の姉がおり、父親の都合でイラン、エジプトで過ごした過去を持つ大阪人。
上巻では幼少期から思春期までが描かれており、魅力的な脇役と共に、一人の男の子が様々な思いを抱いて生きていきます。
下巻未読のためあくまで上巻のみのレビューですが、上巻から伝わるのは一貫して「私は私だ」という強烈な思想。
しかもそれが、主人公歩くん以外からのメッセージであるのが面白い。
というのも、歩だけが言うなればKY(空気、読む)、自己顕示欲の権化である姉の反面教師から、今この時自分がどういった立ち位置でなにを発するべきかを常にアンテナ張って生きてるような男。
けれど歩以外の圷ファミリー、そして彼の友人、叔母たちは皆共通して「自分」という一本の核を通して生きているような節があります。
歩は周囲の人々に様々な感情を抱きますが、それを見る度に「考えすぎだぞ歩!」と突っ込みたくなる。
そしてその言葉はそのままそっくり、自分に返ってくる。笑
そう、つまり歩くんは私に似ているなぁーと感じる場面何度もあり、少し恥ずかしくなるのです。
下巻は帯を見るだけでヨダレが出るほど面白そうなので、これから歩が、彼の家族や友人がどういった人生を歩むのか楽しみで仕方ない…。
一気読みします!