『エヴリシング・フロウズ』 / 津村記久子
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(内容紹介)クラス替えは、新しい人間関係の始まり。絵の好きな中学3年生のヒロシは、背が高くいつも一人でいる矢澤、ソフトボール部の野末と大土居の女子2人組、決して顔を上げないが抜群に絵のうまい増田らと、少しずつ仲良くなっていく。母親に反発し、学校と塾を往復する毎日にうんざりしながら、将来の夢もおぼろげなままに迫りくる受験。そして、ある時ついに事件が…。 大阪を舞台に、人生の入り口に立った少年少女のたゆたい、揺れる心を、繊細な筆致で描いた青春群像小説。
『ポースケ』に続き、2014年2作目の津村さん。
先週大阪で開催された本作のサイン会&トークショーを予約していたのですが、予定が入り泣く泣くキャンセル… 津村さんに会える機会はまた今度にお預けして、旅先で本作を読み終えました。
主人公ヒロシは大阪の大正区に住む受験を控えた中学3年生。
津村さんの学生モノは『ミュージック・ブレス・ユー!!』以来?
働く人間模様を描くのはピカイチに巧いと思いますが、思春期の「オトナなコドモ感」の描写もサイコーにクール!今回も然り
新しい学年を迎え、新しいクラスでヤザワという片耳の聴こえない友だちを作り、受験を終えるまでのヒロシの1年が描かれています。
物語には基本的に「ダウナー・フロウズ」とでも呼ぶべき軽くない空気が流れており、決して部活動で全国へ!とか友情の証!とかいう青色の小説ではありません。
けどそれが、すごくすごく良い。
何が良いかって、私のように本をしこしこ読んできた方々は、学生時代を振り返っても良いことばかりじゃなかったし、ヒロシのように物凄いスピードで思考回路は動いていたし、けど表向きは文化祭頑張ったりしていたという経験があると(勝手に)思うから、 本作を読んで「あぁ俺も私もこう思っていたな」という既視感を随所に感じることができる点。
だから青春小説を読んだ時のように憧れを以てトリップする体験とは違う、改めて学生という微妙な立ち位置について振り返ることができるような内容でした。
私が特に好きだった展開について。
ヤザワにはどこからともなく、女学生を妊娠させ流産に至らせたという根も葉もない噂が立ち、これを理由に学校内で苛められます。
話は学校内に収まらず、ヤザワは「間中」という隣の学校のワルに呼び出され、暴行に遭います。
そのことに気づいたヒロシは現場にかけつけ、消防署に電話し火事が起こっていることを伝えることで暴行を辞めさせようとします。
そこでヒロシは「町村」という見張り役の男子学生と目が合います。
事件はヒロシの活躍もあって食い止められ、暴行を加えた連中には破壊したヤザワの自転車の弁償などのバツが与えられ、話は一件落着します。
時は流れ3月の公立高校後期受験。
ヒロシは試験前に、暴行現場で出くわした町村が受験生として同じ会場にいるのを見つけます。
町村もヒロシに気づき、試験後の帰り道、あの時は悪かったとヒロシに必死に謝ります。
町村の弁明に対しヒロシは終始だんまりし、試験どころじゃなかったその日のことをヤザワに一部始終伝えます。
するとヤザワは、自身のところにも事件後町村は謝りに来たことをヒロシに言います。
そして、他の犯行グループの誰もヤザワの所へ来なくなってからも、町村だけは来続けた、ということも加えます。
その後、ヒロシと町村どちらも、公立高校に合格します。
物語はここで終わり、その後ヒロシと町村が同じ高校でどうなったかということは描かれていません。
暴行グループの一味が同じ高校であることはヒロシにとって決してプラスではないし、仲直りしたとの描写もないので、はっきり言って晴れないままの終わり方です。
けどそれが、個人的には日々感じる時間の流れ方に似ているなぁと思うのです。
良くないことが晴れる瞬間、確かにありますが、それが全て無くなってそのあと一切訪れないなんてことは保証されないし、けれど「エヴリシング・フロウズ」で時間は流れていく、なるようになるさという津村作品の訴えは、毎回しみじみと納得感を持って私の心に響きます。
今回の場合、私はヒロシと町村のエピソードでそれを感じました。
他にも大土居という、義父に児童虐待を受けている妹を持つ友だちが出てきますが、彼女の物語にも大きく感情を動かされました。
ここではヒロシの優しさにも当然ながら、大土居の親友である野末という女の子の愛らしさに鼻血ブーでした。(ちょっとここでは書けませんが)
というか、フルノやフジワラといったキャラ立った名脇役達の魅力にやられた、基本的には皆何かを抱えていながら優しい。
暗いけど毎度笑えて泣ける津村作品、本作は久しぶりというのも重なって物凄く良かったです、津村ワークスBEST3に入ります。