『朗読者』 / Bernhard Schlink
★ × 85
内容(「BOOK」データベースより)
15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」―ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー。
『千年の祈り』以来2冊目の新潮クレスト・ブックス。
人生初の神保町に発奮し、テンションMAXのまま何も考えずに手に取った1冊です。(ハードカバーで200円)
調べてみると、アカデミー作品賞にも選ばれた映画『愛を読むひと』の原作であることが分かりました。
さすが本の王国神保町…良い作品プッシュしてくるぜ。
ただ、裏表紙には「胸を締め付けられる残酷な愛の物語。」の一文。
プラス訳書ということで、これは正に私の苦手な小説ではないのか…?
と、かなり訝りつつ読み始めた本書ですが、 なんだろう、このえもいわれぬ高揚感…
名作だと知ったからこそ無意識に加点してしまっているのだろうか。
いや、そこを差し引いてたとしても、いちいちドキドキしたのは不思議。
心情描写や性描写は洋書宜しくファンタジックさ(リアルに感じられないという意味で)があって、どちらかと言えば苦手な文章ですが、何故かどんどん引き込まれていきました。
作中ではよく分からない状況で出会った年の差男女二人が、よく分からないまま愛し始め、よく分からないまま離れ離れになってしまいます。(理由はのちほど)
前半は彼らの性描写が無限ループ気味に続き少し辟易します。
突拍子も無い最初の出会い方や彼女のビ○チぶりなどは正に典型的な洋モノであり、あぁーやっぱ苦手だと心が離れかけそうでした。
ただし後半の内容を知った今であれば、前半に繰り返されたこの2人の関係が何とも愛おしい。
訳者あとがきの「本作は2度読むことを勧めている」という言葉通りです。
中盤以降の内容、少しだけネタばれになりますが、
ある日年上の彼女ハンナは、主人公ミヒャエルの元から突然姿を消します。
悲しみを引きずるミヒャエルでしたが、数年後、彼らは法廷で再会します。
実はハンナは第二次世界大戦中に強制収容所で看守をしていた過去があり、この罪によって裁判で裁かれてしまいます。
その時法学生であった主人公ミヒャエルは、勉強の一環で傍聴した裁判で、罪に問われるハンナを数年ぶりに見かけます。
私にとってこの時のミヒャエルの反応が、本書を良書たらしめる一番の理由なんじゃないかと考えています。
あれほど愛した女性が突如姿を消し、悲しみにくれた数年ののちに裁判で偶然の再会を果たす。
このような設定で通常の文学作品であれば、手を変え品を変え、様々な技法を駆使した文章の表現方法で感動や驚きを訴えかけてきそうなもんです。
『愛を読むひと』を観ていないので分かりませんが、おそらく映画ではそんな風に再会のシーンが描かれたのではないでしょうか。
しかし小説では、ミヒャエルの心情描写が非常に「淡々と」しているというか、ハンナへの愛が再び極まっているとは言い難く、彼の興味はユダヤ人絶滅計画など、裁判の内容自体に傾倒していく様が描かれています。
そう、元々がかなり年の差恋愛だったことから、再会を果たした時にハンナは43歳なんですよね。
この年上の女性に再び欲情するというのは現実には可能性低いと思うんです。(めちゃめちゃ失礼ですが)
だからこのミヒャエルの反応が、小説としては少し物足りなさを感じますが、実際として非常にリアリティあるんじゃないか、そう思いました。
この中盤の描写により、本書を単なる恋愛小説で終わらせず、哲学を挿しこんだ非常に興味深い作品として世に評価されているのかなと感じます。
あぁーでも映画観てみたいな。
超ド直球の恋愛映画として作り上げられているとしても、感動してしまうと思います。
そんな風に感じさせてくれる、結局は切ない恋愛小説でした。