『八月の母』 / 早見和真
『帰りたい』と同じく、本の雑誌2022のランキングで絶賛されていた国内小説。初めて読んだ早見和真さん。
『帰りたい』に続いて年末のドデカ案件、こちらも一気読み、、、日曜の朝読み切ったが1日ドンヨリする程ココロ持って行かれました笑
舞台は愛媛県伊予市の貧困団地。時代は50年ほど前から現在までを描いており、越智美智子、越智エリカ、越智陽向(ひなた)という三世代に渡る越智一族の女性を追ったもの。テーマは「母娘」という特異な関係性。同じく今年読んだ『母という呪縛 娘という牢獄』や『黄色い家』とも共通するテーマやけど、本作は美智子 - エリカ、エリカ - ひなた という三世代分の母娘を描くことで、母もまた祖母の娘であり、その祖母もまたかつては娘だったという、歴史的な(悪い意味での)スパイラルを見事に表してる。
大きく一部・二部に分かれているが、一部の終盤に軽めの叙述トリックが明かされたのち、二部で紘子という第三者の女性視点で物語が進行するようになってから、一気に熱を帯びた感がある。紘子視点になることで、美智子-エリカ-ひなたという越智一族が第三者視点から形取られており、初めのうちはエリカに絶大な信頼感を抱いていた紘子(及び読み手の俺)だが、終盤にかけて団地という閉ざされた空間における越智家の異様性が俄かに炙り出されてく様は圧巻の読み応えやった。
ただし、第二部最後の紘子の結末はあまりに悲しく、読み進めるのが一気に苦しくなった。繰り返しになるが川上未映子さんの『黄色い家』でも描かれていたように、閉ざされた空間での集団生活の危険性って、一体なんなんだろうと不思議に思う。本作で言うとエリカも紘子もその周囲の同居人も、決して何か恣意的なトリガを仕掛けた訳ではなく、ただ各々の正義を持って同居してただけなのに、いつからか歯車がひとつずつ狂って、いつのまにか集団で麻痺して取り返しのつかない事態となってしまう。小説でなく事実こういった無念でしかない事件はたびたび報道されるが、その度に不思議に思う。
本作で一つ特徴的なのは、その集団生活の中心は女性であり、団地で数十人が共同生活せざるを得なくなった状況を作り出した背景には、圧倒的な男性優位社会が存在してる故であることを訴えていること。これは著者は完全に意図的と思う。故にエリカや周囲の人物が明確に悪事を働いたとは言い切れず、社会構造の歪みがそうさせたという点で彼女たちはある種の被害者とも見れる。それが余計やるせなくてドンヨリしてしまう。
ただ一つ本作の救いは、冒頭書いた「悪い意味でのスパイラル」、これをエピローグでひなたが断ち切ったこと。もちろん現実社会ではこんな風に割り切れないケースがほとんどと思うが、そこは小説として最後少しでも光が射す構成にしてくれて良かった(もしそうじゃなかったら、いよいよ読み手は立ち直れなかったやろう笑)。
社会性・エンタメ性の観点で超弩級作品と思います。てか本の雑誌社の選書ハズレなさすぎぃ!腰据えて是非読んでほしい一冊です。
うだるような暑さだった八月。あの日、あの団地の一室で何が起きたのか。執着、嫉妬、怒り、焦り……。人間の内に秘められた負の感情が一気にむき出しになっていく。強烈な愛と憎しみで結ばれた母と娘の長く狂おしい物語。ここにあるのは、かつて見たことのない絶望か、希望か──。