bookworm's digest

33歳二児のエンジニアで、日記をずらずら書いていきます

記事一覧 ブログ内ランキング 本棚

2015/09/20 『孤独か、それに等しいもの』 / 大崎義生
2015/09/17 『今日を歩く』 / いがらしみきお
2015/09/16 『ケンブリッジ・クインテット』 / ジョン・L・キャスティ
2015/09/06 『裸でも生きる2』 / 山口絵理子
2015/09/02 『数学的にありえない(下)』 / アダム・ファウアー
2015/08/30 『だから日本はズレている』 / 古市憲寿
2015/08/28 『数学的にありえない(上)』 / アダム・ファウアー
2015/08/18 『僕は問題ありません』 / 宮崎夏次系
2015/08/16 『世界の終わりと夜明け前』 / 浅野いにお
2015/08/13 『ワイフ・プロジェクト』 / グラム・シムシオン
2015/08/13 『伊藤くんA to E』 / 柚木麻子
2015/07/30 『断片的なものの社会学』 / 岸政彦
2015/07/25 『雨のなまえ』 / 窪美澄
2015/07/22 『愛に乱暴』 / 吉田修一
2015/07/19 『ナイルパーチの女子会』 / 柚木麻子
2015/07/15 『ひらいて』 / 綿矢りさ
2015/07/13 『るきさん』 / 高田文子
2015/06/24 『装丁を語る。』 / 鈴木成一
2015/06/16 『春、戻る』 / 瀬尾まいこ
2015/06/13 『かわいそうだね?』 / 綿矢りさ
2015/06/12 『未来国家ブータン』 / 高野秀行
2015/06/09 『存在しない小説』 / いとうせいこう
2015/06/02 『帰ってきたヒトラー』 / ティムールヴェルメシュ
2015/05/31 『流転の魔女』 / 楊逸
2015/05/21 『火花』 / 又吉直樹
2015/05/19 『あと少し、もう少し』 / 瀬尾まいこ
2015/05/17 『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』 / 古市憲寿、上野千鶴子
2015/05/02 『切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』 / 佐々木中
2015/04/26 『恋するソマリア』 / 高野秀行
2015/04/25 『アル中ワンダーランド』 / まんしゅうきつこ
2015/04/23 『レンタルお姉さん』 / 荒川龍
2015/04/17 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 / J.D.サリンジャー
2015/04/12 『しょうがの味は熱い』 / 綿矢りさ
2015/04/07 『ペナンブラ氏の24時間書店』 / ロビン・スローン
2015/03/26 『せいめいのはなし』 / 福岡伸一
2015/03/25 『やりたいことは二度寝だけ』 / 津村記久子
2015/03/21 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下)』 / 増田俊也
2015/03/14 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上)』 / 増田俊也
2015/03/06 『元職員』 / 吉田修一
2015/02/28 『黄金の少年、エメラルドの少女』 / Yiyun Li
2015/02/23 『太陽・惑星』 / 上田岳弘
2015/02/14 『迷宮』 / 中村文則
2015/02/11 『僕は君たちに武器を配りたい』 / 滝本哲史
2015/02/08 『斜光』 / 中村文則
2015/02/04 『この人たちについての14万字ちょっと』 / 重松清
2015/01/27 『名もなき孤児たちの墓』 / 中原昌也
2015/01/18 『満願』 / 米澤穂信
2015/01/15 直木賞
2015/01/15 『Hurt』 / Syrup16g
2015/01/14 『地下の鳩』 / 西加奈子
2015/01/10 『きょうのできごと』 / 柴崎友香
2015/01/05 『月と雷』 / 角田光代
2015/01/02 『カワイイ地獄』 / ヒキタクニオ
2014/12/31 『死んでも何も残さない』 / 中原昌也
2014/12/30  2014年ベスト
2014/12/18 『サラバ!下』 / 西加奈子
2014/12/13 『サラバ!上』 / 西加奈子
2014/12/12 『できそこないの男たち』 / 福岡伸一
2014/12/4 『ザ・万歩計』 / 万城目学
2014/12/1 『ぼくには数字が風景に見える』 / ダニエル・タメット
2014/11/25 『アズミ・ハルコは行方不明』 / 山内マリコ
2014/11/19 『勝手にふるえてろ』 / 綿矢りさ
2014/11/13 『ジャージの二人』 / 長嶋有
2014/11/6 『8740』 / 蒼井優
2014/11/5 『計画と無計画のあいだ』 / 三島邦弘
2014/10/31 『問いのない答え』 / 長嶋有
2014/10/29 『ジュージュー』 / よしもとばなな
2014/10/20 『Bon Voyage』 / 東京事変
2014/10/17 『女たちは二度遊ぶ』 / 吉田修一
2014/10/15 『カソウスキの行方』 / 津村記久子
2014/10/10 『69(シクスティナイン)』 / 村上龍
2014/10/3 『論理と感性は相反しない』 / 山崎ナオコーラ
2014/9/28 『最後の家族』 / 村上龍
2014/9/25 『グラスホッパー』 / 伊坂幸太郎
2014/9/23 『エヴリシング・フロウズ』 / 津村記久子
2014/9/13 『神様のケーキを頬ばるまで』 / 彩瀬まる
2014/8/23 『西加奈子と地元の本屋』 / 西加奈子・津村記久子
2014/8/10 『蘇る変態』 / 星野源
2014/8/4  『ジョゼと虎と魚たち』 / 田辺聖子
2014/7/31 『マイ仏教』 / みうらじゅん
2014/7/23 『オールラウンダー廻』 / 遠藤浩輝
2014/7/17 『ゴールデンスランバー』 / 伊坂幸太郎
2014/7/16 『百万円と苦虫女』 / タナダユキ
2014/7/8  『人生エロエロ』 / みうらじゅん
2014/6/28  駄文・本を読まない場合
2014/6/8  『平常心のレッスン』 / 小池龍之介
2014/6/5  『僕らのごはんは明日で待ってる』 / 瀬尾まいこ
2014/5/27 『泣き虫チエ子さん』 / 益田ミリ
2014/5/25 『動的平衡2 生命は自由になれるのか』 / 福岡伸一
2014/5/14 『春にして君を離れ』 / アガサ・クリスティー
2014/5/9  『統計学が最強の学問である』 / 西内啓
2014/5/1  『不格好経営』 / 南場智子
2014/4/27 『きみの友だち』 / 重松清
2014/4/22 『善き書店員』 / 木村俊介
2014/4/15 『人生オークション』 / 原田ひ香
2014/4/8  『疲れすぎて眠れぬ夜のために』 / 内田樹
2014/4/1  『戸村飯店 青春100連発』 / 瀬尾まいこ
2014/3/28 『完全なる証明』 / Masha Gessen
2014/3/22 『渾身』 / 川上健一
2014/3/16 『憂鬱でなければ、仕事じゃない』 / 見城徹、藤田晋
2014/3/12 『恋文の技術』 / 森見登美彦
2014/3/6  『国境の南、太陽の西』 / 村上春樹
2014/2/28 『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』 / 福岡伸一
2014/2/23 『雪国』 / 川端康成
2014/2/17 『ロマンスドール』 / タナダユキ
2014/2/15 『それから』 / 夏目漱石
2014/2/11 『悩む力』 / 姜尚中
2014/2/5  『暗号解読<下>』(1) / Simon Lehna Singh
2014/1/31 『暗号解読<上>』 / Simon Lehna Singh
2014/1/26 『脳には妙なクセがある』 / 池谷裕二
2014/1/19 『何者』 / 朝井リョウ
2014/1/15 『ポースケ』 / 津村記久子
2014/1/13 駄文・2013年と2014年の読書について
2014/1/8  『×と○と罪と』 / RADWIMPS
2013/12/29  2013年ベスト
2013/12/23 『骨を彩る』 / 彩瀬まる
2013/12/18 『愛を振り込む』 / 蛭田亜紗子
2013/12/11 『あなたの前の彼女だって、むかしはヒョードルだのミルコだの言っていた筈だ』 / 菊池成孔
2013/12/4 『円卓』 / 西加奈子
2013/11/26 『暗い夜、星を数えて』 / 彩瀬まる
2013/11/24 『お父さん大好き』 / 山崎ナオコーラ
2013/11/16 『BEST2』 / TOMOVSKY
2013/11/10 『人のセックスを笑うな』 / 山崎ナオコーラ
2013/11/9 『困ってるひと』 / 大野更紗
2013/11/4 『ジ・エクストリーム・スキヤキ』 / 前田司郎
2013/11/3 『こころの処方箋』 / 河合隼雄
2013/10/27 『朗読者』 / Bernhard Schlink
2013/10/24  駄文・フーリエ変換について
2013/10/16 『ノーライフキング』 / いとうせいこう
2013/10/11 『東京百景』 / 又吉直樹
2013/10/7 『社会を変える驚きの数学』 / 合原一幸
2013/10/4 『楽園のカンヴァス』 / 原田マハ
2013/9/29 『ともだちがやってきた。』 / 糸井重里
2013/9/28 『若いぼくらにできること』 / 今井雅之
2013/9/21 『勝間さん、努力で幸せになりますか』 / 勝間和代 × 香山リカ
2013/9/17 『シャッター商店街と線量計』 / 大友良英
2013/9/8  『ハンサラン 愛する人びと』 / 深沢潮
2013/9/7  駄文・読書時間について
2013/8/31 『幻年時代』 / 坂口恭平
2013/8/26 『人間失格』 / 太宰治
2013/8/21 『天国旅行』 / 三浦しをん
2013/8/17 『野心のすすめ』 / 林真理子
2013/8/7  『フェルマーの最終定理』 / Simon Lehna Singh
2013/8/4  『本棚の本』 / Alex Johnson
2013/7/31 『これからお祈りにいきます』 / 津村記久子
2013/7/26 『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 / 山田詠美
2013/7/20 『殺戮にいたる病』 / 我孫子武丸
2013/7/15 駄文・どんでん返しミステリーについて
2013/7/15 『ツナグ』 / 辻村深月
2013/7/11 『岳物語』 / 椎名誠
2013/7/9  『黄金を抱いて翔べ』 / 高村薫
2013/7/2  『工場』 / 小山田浩子
2013/6/25 駄文・スマートフォンの功罪について
2013/6/22 『ぼくは勉強ができない』 / 山田詠美
2013/6/15 『少女は卒業しない』 / 朝井リョウ
2013/6/12 『死の壁』 / 養老孟司
2013/6/7  『卵の緒』 / 瀬尾まいこ
2013/6/6  『一億総ツッコミ時代』 / 槙田雄司
2013/5/28 『うたかた / サンクチュアリ』 / 吉本ばなな
2013/5/24 『ルック・バック・イン・アンガー』 / 樋口毅宏
2013/5/20 『クラウドクラスターを愛する方法』 / 窪美澄
2013/5/17 『けむたい後輩』 / 柚木麻子
2013/5/13 『あの人は蜘蛛を潰せない』 / 彩瀬まる
2013/5/10 駄文・本と精神について
2013/4/30 『想像ラジオ』 / いとうせいこう
2013/4/22 『あなたの中の異常心理』 / 岡田尊司
2013/4/10 『千年の祈り』 / Yiyun Li
2013/4/5  駄文・文学賞について
2013/3/31 『今夜、すべてのバーで』 / 中島らも
2013/3/22 『何もかも憂鬱な夜に』 / 中村文則
2013/3/13 『生物と無生物のあいだ』 / 福岡伸一
2013/3/10 駄文・紙と電子について
2013/3/2  『ウエストウイング』 / 津村記久子
2013/2/24 『ブッダにならう 苦しまない練習』 / 小池龍之介
2013/2/16 『みずうみ』 / よしもとばなな
2013/2/8  『何歳まで生きますか?』 / 前田隆弘
2013/2/3  『ワーカーズ・ダイジェスト』 / 津村記久子

工事中…

ブクログというサイトで読んだ本のログをつけています。
tacbonaldの本棚




みんなもっと日記を書いて売ったらいいのに

『みんなもっと日記を書いて売ったらいいのに』 / 小沼理

booknerd.stores.jp

著者は『 1日が長いと感じられる日が、時々でもあるといい』で知った小沼さん。あちらは商業出版やったが、どうやら最近の小沼さんは精力的にZINEを発行されてるらしく本書もそう。タイトルに惹かれ購入した、「人はなぜ日記を書くのか」という振りかぶったコンセプトを基に書かれたエッセイ。

 

以前読んだ時の印象と変わらずとても丁寧な文体。振りかぶったテーマゆえに書き方によっては説法ぽくなりがちなところを、きちんと自身の経験や価値観に基づいて自分の言葉で語ってる感がある。なので途中、出版して金を稼ぐことの重要性という、ともすれば棘が立ちそうなテーマも自然に納得して読み進められた。

 

面白かったのは2点で、1点目はコロナ禍における日記文学に関して(これについては前作でも語られてたかもしれない)。

私自身はコロナ禍に突入したあと、他人がこの事態をどう受けとめて過ごしてるんかってことに興味が出て、それを知る最も良い手段が日記やエッセイの出版物やZINEを読みまくることやった。一方、小沼さんは15のときから誰に見せるでもない日記を毎日付け続けて、コロナ禍になってそれを「公開する側」になった経緯がある。

ニーズ・シーズマッチングのように、読んでもらいたい人と読ませてもらいたい人がコロナ禍で紐づく現象は面白いし、俺は「他人について知りたい」という思いからやけど、小沼さんは「自分自身について知りたい」という感情起点で本を出すことになったという結果がなんとも不思議。

日記を書いていると、漠然とモヤモヤしていた気持ちがすっきりするような、少なくともこれ以上は悪くならないような気持ちになることがある。「考えてもどうにもならないことで不安になっているな」とか、「また同じようなところで行き詰まっているな」と、悩むのを中断できる。それは事実と想像を分けることの効用なのだろう。

出版する気は全くゼロの、気づけば惰性で12年続けてるこのレビューブログも、何のためと問われると、「読んだ本を自分が忘れないようにしたい」と漠然と答えてたが、上述のように平易な言葉で言語化されてて、スッキリした気持ちで読み終わりました。

 

 

また小沼さんはゲイを公言されてるが、付録にある星野文月さんとの対談で、ゲイが消費されるように本を紹介されることの是非という非常に難しい問いについても、悩んだ時期を経て辿り着いたご自身の考えをキレイに言語化されてて感銘を受けたので残しておきます。

自らのセクシャリティを隠すしかない時代を経て、やっぱり言っていくことが大事だ、という流れが生まれてきたんです。属性だけが切り取られて消費されてしまう側面も、もちろんある。でも、それを書かないことで同じ属性を持つひとに届かなかったり、うまく伝わらなかったりするデメリットを天秤にかけたら、やっぱり書いた方がいいなっていう結論に至って。商品化されるっていう感覚はなくて、むしろ自分がそれを引き受けたっていう感じです。

 

 

出口のない海

出口のない海』 / 横山秀夫

会社の飲み会で「日本戦争映画の変遷」の話題になり、そういえば過去読んだ戦争小説って今読むとどう感じるんやろとふと思い、帰りにKindleでポチった。

いやぁ横山秀夫さん、、、『64』以来やから約10年ぶりに読んだけど、やぱ異次元の引き込み力、、!!圧倒的な圧!!!1日で読み切って放心しました。

 

 

第二次世界大戦下の日本に実在した人間魚雷「回天」に乗る軍人を題材とした小説。回天は先端に大量の爆薬を仕込んだ魚雷であり、一度操縦席に入ると内側からは脱出できず、そののちは敵の艦隊に突っ込み自爆する未来だけが約束された「出口のない」非可逆の兵器。小説では現代に生きる元野球部キャッチャーの剛原の視点から始まり、その後は回天の搭乗に志願した、剛原とバッテリーを組んでいたピッチャー並木の戦時中の物語という風に時間を遡る。

剛原が冒頭に投げかける「なぜ並木は回天に志願したのか」という問いに対するアンサーが戦時中の章で為されるワケやけど、読んでいる側としても、魔球を投げたいという夢、そして美奈子という愛する恋人を持つまっすぐで魅力的な並木がなぜ人間魚雷に志願したのかを考えさせられていく。戦争小説と言いつつ、そこは横山秀夫さんの真骨頂であるミステリー性もちゃんと含まれている。

 

まぁとにかく、

文章が、

うますぎる!

 

「あぁ、横山秀夫さんってこういうとこすごかったなぁ、、」と噛み締めたくなる。物事や心情をとにかく端的に、「この文字数で表現するための最適解」みたいな文章が連続で出まくってくる。

例えば物語の終盤、同僚の沖田や北の前から並木が姿を消したシーン、

逆光の中、事業服姿の並木は弾む足で兵舎を出て行った。それが並木を見た最後だった。

(略)

子供のような笑顔で言うと、並木は軽快にラッタルを駆け上がり、交通筒へ消えた。それが並木を見た最後だった。

軽快に読み進めている中で突如出てくる話の矛盾に「えっ?」と立ち止まらされ、
その後からこれまた端的に淡々と真相が明らかになってくるという作り、もううますぎて、物語の展開以上に文の美しさに見惚れてしまいます。

 

そう言ってしまうと、じゃあ横山秀夫さんを味わうなら本作じゃなくても良かったじゃないかとなるが、本作をそもそも改めて読んだのは、戦争が美化されてる印象を受けた過去の作品を再体験するとどう感じるかということを、36歳になった今確かめたいという理由だった。

ただ、15年前に本作を読んだ時の印象とは違い、別に本書はそもそも、戦争を美化したものでは決してありませんでした。

 

並木は決してお国のために人間魚雷を望んだわけではなく、作中の大半で逡巡していることが見て取れる。

自分は特攻という美名と功名心の虜になってはいなかったか。国家とか軍隊とかの見えざる巨大な意思に同期し、引きずられ、流されてきた。そうではないと言い切れるか。お仕着せの男の生きざまに飛びつき、そこから外れてしまうのが怖くて、生きていたいという本能を無理やりねじ伏せ、封じ込めてきた。他の誰よりも勇敢足らんと虚勢を張ってきた。

戦争はお国をあげて一億総動員していたという大局的な事実とは別に、人一人の視点で見たときに、皆が皆こうやって当たり前に逡巡していた。けど各々が各々を麻痺させることで、結局全体として戦争に向かって行ってしまった、そんな構図が炙り出てくる。それは規模は違えど、今の大企業病や貧困問題と本質は全く変わってないという悲しい事実に行き着く。歴史ものを知って過去を学ぶというのはこういうことかと圧倒させられた。

俺は人間魚雷という兵器がこの世に存在したことを伝えたい。俺たちの死は、人間が兵器の一部になったことの動かしたい事実として残る。それでいい。俺はそのために死ぬ。

「読みやすい戦争小説」って言うとなんか語弊も矛盾も生んでしまいそうやけど、広く伝えるための手段として本書は間違いなく良書です!

 

ケチる貴方

『ケチる貴方』 / 石田夏穂

近所の絵本屋さん店主に勧められた一冊。2022年野間文芸新人賞受賞作品。著者・石田夏穂さんは初めて読んだ方でしたが、初期津村記久子さん作品のワーカーズ小説を彷彿とさせるような圧倒的リアリティと温度感とユーモア、めちゃ好きでした!!(続けざまに最新作も即買い)

 

『ケチる貴方』と『その周囲、五十八センチ』の2作から為る小説。

『ケチる〜』は年中冷え性に悩まされる主人公、『その周囲、〜』は太すぎる我が太ももに悩まされる主人公と、いずれも身近な問題ながら「そのテーマで物語として走り抜けるのか・・?」と不安になるような設定であるが、約100ページずつ飽きることなくきちっと小説として完成されてて感動した。

 

魅力は3点あって1点目はエンタメ性。前述の通りミニマルな設定で描きぬきつつ、自然な流れで感情もしっかり揺り動かしてくる。表題作では、人への親切心や思いやりを持つと己の身体が暖かくなる現象に気づいた主人公が、過去の自分とは打って変わって人間味を帯びていったり、『その周囲、』でも脂肪吸引足が細くなってくにつれ、同じく主人公が人間味を帯びていく。(行き着いた策が脂肪吸引ということの是非は一旦さておき)

 

2点目はワーカーズ小説としての異常なまでの設定の細部。各編の主人公は、備蓄用タンクの設計と施工を請け負う工事業者、及び配管設計エンジニアというあまりイメージしにくい設定にも関わらず、「著者の前職はこれだったのか?」と疑うほど細部がしっかり描かれていて、著者のぶっといこだわりや取材力みたいなものが感じられた。「設定がしっかりしている」という事実は、感情移入する上でストーリー性以上に大事だと思う。それを教えてくれたのは個人的には津村記久子さん作品なのですが、本作も著者もそのバイブスを持っていてすごく魅力的。

 

最後の3点目はユーモア。ここも先ほど書いた津村さん同様、決して無理ない温度感で挿し込まれる

私の羞恥心は太腿の直径に等しく、私の人生に対する悲哀は太腿の表面積に等しかった。

みたいな笑える表現が要所要所で光っている。ミニマルな設定な分眠くなる作品ってありがちやけど、本作に出てくるコンスタントなユーモアが眠さを感じさせず一気に読ませてくれる。

 

いやーー久々に新しい作家に出会えて嬉しい、、しばらく追います!

 

君が手にするはずだった黄金について

『君が手にするはずだった黄金について』 / 小川哲

ローカルな駅でふと時間ができて入ったブックファーストで購入した、本屋大賞候補にも選ばれた2023年爆売れ本。

 

前知識なく読み始めたが、滝口悠生さん『長い一日』のような、著者自身の実話をほぼそのまま小説に落とし込んだ形態。著者の経歴をみると東大卒!小説のストーリーうんぬんよりも、所狭しと出てくる著者のアタマの良さを楽しむような作品でした。

僕は、道に迷ったとき、適当にいろんな道に入っていき、知らない景色の中で試行錯誤するのが好きだ。悩み事があっても他人には相談せず、自分なりに解決の糸口を見つけようとする性格は、間違いなく創作の助けになっている。普遍的に言えば、「何かに困っているとき、その原因を調べて、自力で解決するのが好きだ」と言えるかもしれない。裏返すと、「いちいち他人に口出しされるのが好きではない」となる。

 

小説家に必要なのは才能ではなく、才能のなさなのではないか。普通の人が気にせず進んでしまう道で立ち止まってしまう愚図の性格や、誰も気にしないことにこだわってしまう頑固さ、強迫観念のように他人と同じことをしたくないと感じてしまう天邪鬼な態度。小説を書くためには、そういった人間としての欠損-ーある種の「愚かさ」が必要になる。何もかもがうまくいっていて、摩擦のない人生に創作は必要ない。

どの編をとっても、正直ストーリーとしてはあまり楽しめなかった。ただ、この良い意味で偏屈な作品が、その年を象徴するグランプリとなった本屋大賞の候補作というのは驚き。本作に全く関係ないが、今年の本屋大賞授賞式で、昨年受賞された凪良ゆうさんのスピーチがとても良かった。この20年で本屋は半数に激減してるという流れ、、ますます独立書店を応援したいと強く思いました。

金は払う、冒険は愉快だ

『金は払う、冒険は愉快だ』 / 川井俊夫

タイトルと装丁が去年から気になってた作品、本屋で見つけて即買い。元々アル中でホームレスだった著者が、古道具屋を営む中で出会う不思議な人々を描いたエッセイ。いやーーー文章力の為せる技! 面白く一気読みでした。

 

冒頭から汚い言葉の連打で、特に老人の客に対する「どうせお前らはもうじき死ぬだろクソ[ババア | ジジイ] 的スタンスはコレちょっと好きではないかも、、と始め眉を顰めてもうたが、読み進めるにつれドンドンとハマっていく。

理由は何に起因するんやろと考えると、ひとえに「言葉のまっすぐさ」に尽きるかもしれない。ここまで迷いのない、1人の人間に通った一本のスジというものを、本に限らずとも最近摂取することが中々なくて、とても新鮮に映った。

 

勿論個人的には日々逡巡し、正解/不正解に一喜一憂する泥臭い日記やエッセイが大好きです。自分を作品に投影して、勇気や感動をもらったりできるのが理由です、と、自信を持って言えます。

けれど本作は自分には無い、時に汚い言葉を使ってでも通すべきスジを通してる人間を目の前に、羨望の気持ちを抱けるのが魅力です。

死ぬ前になにか思い出せ。道具屋に買取ってもらうのに相応しいなにかがまだあんたの人生に残されてるかも知れない。忘れるなよ。毎日五分間、思い出すために集中する時間を作るんだ。そしていつか俺の名刺を握りしめて死ね。

 

離島の果てで死んだように生きていた頃、突然現れた今の妻に救われたエピソードは「ホンマか?」と疑うほど映画的で引き込まれた。途中、著者が190cm100kg、配偶者が145cm38kgという定量的な大小の対比が出てきて思わず笑ったが、世の中にはホント不思議な関係性の人々がいるんやなぁ、、としみじみ思った。当たり前やけど本作は川井さんの著者故に川井さん視点でしか過去エピソードについて知らされないけど、配偶者視点の川井さん伝もぜひ読みたいと思わされた。

俺は家族のことなんて考えていない。生命保険に入ってる。商売がダメになったら死ねばいい。惨めで悲しい気持ちになるかもしれないが、それだけだ。妻や娘の悲しむ顔を想像したりもしないし、俺の世界では俺の意思より大切なものは存在しない。