『ケチる貴方』 / 石田夏穂
近所の絵本屋さん店主に勧められた一冊。2022年野間文芸新人賞受賞作品。著者・石田夏穂さんは初めて読んだ方でしたが、初期津村記久子さん作品のワーカーズ小説を彷彿とさせるような圧倒的リアリティと温度感とユーモア、めちゃ好きでした!!(続けざまに最新作も即買い)
『ケチる貴方』と『その周囲、五十八センチ』の2作から為る小説。
『ケチる〜』は年中冷え性に悩まされる主人公、『その周囲、〜』は太すぎる我が太ももに悩まされる主人公と、いずれも身近な問題ながら「そのテーマで物語として走り抜けるのか・・?」と不安になるような設定であるが、約100ページずつ飽きることなくきちっと小説として完成されてて感動した。
魅力は3点あって1点目はエンタメ性。前述の通りミニマルな設定で描きぬきつつ、自然な流れで感情もしっかり揺り動かしてくる。表題作では、人への親切心や思いやりを持つと己の身体が暖かくなる現象に気づいた主人公が、過去の自分とは打って変わって人間味を帯びていったり、『その周囲、』でも脂肪吸引足が細くなってくにつれ、同じく主人公が人間味を帯びていく。(行き着いた策が脂肪吸引ということの是非は一旦さておき)
2点目はワーカーズ小説としての異常なまでの設定の細部。各編の主人公は、備蓄用タンクの設計と施工を請け負う工事業者、及び配管設計エンジニアというあまりイメージしにくい設定にも関わらず、「著者の前職はこれだったのか?」と疑うほど細部がしっかり描かれていて、著者のぶっといこだわりや取材力みたいなものが感じられた。「設定がしっかりしている」という事実は、感情移入する上でストーリー性以上に大事だと思う。それを教えてくれたのは個人的には津村記久子さん作品なのですが、本作も著者もそのバイブスを持っていてすごく魅力的。
最後の3点目はユーモア。ここも先ほど書いた津村さん同様、決して無理ない温度感で挿し込まれる
私の羞恥心は太腿の直径に等しく、私の人生に対する悲哀は太腿の表面積に等しかった。
みたいな笑える表現が要所要所で光っている。ミニマルな設定な分眠くなる作品ってありがちやけど、本作に出てくるコンスタントなユーモアが眠さを感じさせず一気に読ませてくれる。
いやーー久々に新しい作家に出会えて嬉しい、、しばらく追います!