『君が手にするはずだった黄金について』 / 小川哲
ローカルな駅でふと時間ができて入ったブックファーストで購入した、本屋大賞候補にも選ばれた2023年爆売れ本。
前知識なく読み始めたが、滝口悠生さん『長い一日』のような、著者自身の実話をほぼそのまま小説に落とし込んだ形態。著者の経歴をみると東大卒!小説のストーリーうんぬんよりも、所狭しと出てくる著者のアタマの良さを楽しむような作品でした。
僕は、道に迷ったとき、適当にいろんな道に入っていき、知らない景色の中で試行錯誤するのが好きだ。悩み事があっても他人には相談せず、自分なりに解決の糸口を見つけようとする性格は、間違いなく創作の助けになっている。普遍的に言えば、「何かに困っているとき、その原因を調べて、自力で解決するのが好きだ」と言えるかもしれない。裏返すと、「いちいち他人に口出しされるのが好きではない」となる。
小説家に必要なのは才能ではなく、才能のなさなのではないか。普通の人が気にせず進んでしまう道で立ち止まってしまう愚図の性格や、誰も気にしないことにこだわってしまう頑固さ、強迫観念のように他人と同じことをしたくないと感じてしまう天邪鬼な態度。小説を書くためには、そういった人間としての欠損-ーある種の「愚かさ」が必要になる。何もかもがうまくいっていて、摩擦のない人生に創作は必要ない。
どの編をとっても、正直ストーリーとしてはあまり楽しめなかった。ただ、この良い意味で偏屈な作品が、その年を象徴するグランプリとなった本屋大賞の候補作というのは驚き。本作に全く関係ないが、今年の本屋大賞授賞式で、昨年受賞された凪良ゆうさんのスピーチがとても良かった。この20年で本屋は半数に激減してるという流れ、、ますます独立書店を応援したいと強く思いました。