『金は払う、冒険は愉快だ』 / 川井俊夫
タイトルと装丁が去年から気になってた作品、本屋で見つけて即買い。元々アル中でホームレスだった著者が、古道具屋を営む中で出会う不思議な人々を描いたエッセイ。いやーーー文章力の為せる技! 面白く一気読みでした。
冒頭から汚い言葉の連打で、特に老人の客に対する「どうせお前らはもうじき死ぬだろクソ[ババア | ジジイ] 的スタンスはコレちょっと好きではないかも、、と始め眉を顰めてもうたが、読み進めるにつれドンドンとハマっていく。
理由は何に起因するんやろと考えると、ひとえに「言葉のまっすぐさ」に尽きるかもしれない。ここまで迷いのない、1人の人間に通った一本のスジというものを、本に限らずとも最近摂取することが中々なくて、とても新鮮に映った。
勿論個人的には日々逡巡し、正解/不正解に一喜一憂する泥臭い日記やエッセイが大好きです。自分を作品に投影して、勇気や感動をもらったりできるのが理由です、と、自信を持って言えます。
けれど本作は自分には無い、時に汚い言葉を使ってでも通すべきスジを通してる人間を目の前に、羨望の気持ちを抱けるのが魅力です。
死ぬ前になにか思い出せ。道具屋に買取ってもらうのに相応しいなにかがまだあんたの人生に残されてるかも知れない。忘れるなよ。毎日五分間、思い出すために集中する時間を作るんだ。そしていつか俺の名刺を握りしめて死ね。
離島の果てで死んだように生きていた頃、突然現れた今の妻に救われたエピソードは「ホンマか?」と疑うほど映画的で引き込まれた。途中、著者が190cm100kg、配偶者が145cm38kgという定量的な大小の対比が出てきて思わず笑ったが、世の中にはホント不思議な関係性の人々がいるんやなぁ、、としみじみ思った。当たり前やけど本作は川井さんの著者故に川井さん視点でしか過去エピソードについて知らされないけど、配偶者視点の川井さん伝もぜひ読みたいと思わされた。
俺は家族のことなんて考えていない。生命保険に入ってる。商売がダメになったら死ねばいい。惨めで悲しい気持ちになるかもしれないが、それだけだ。妻や娘の悲しむ顔を想像したりもしないし、俺の世界では俺の意思より大切なものは存在しない。