『家族と厄災』 / 信田さよ子
著者はカウンセラーで『母が重くてたまらない』の著者である信田さよ子さん。こないだ読んで面白かった土門蘭さん著『死ぬまで生きる日記』と同じく生きのびるブックス社から出版された本。タイトルで言う厄災=コロナ禍を指しており、コロナ禍で女性の負担が上がり自殺率が増えた状況を、患者に近い距離でカウンセラーとして接していた信田さんが分析/考察したものです。
たまたまちょうど、阪神大震災時の様々な女性の言葉を寄せ集めた『女たちが語る阪神大震災』も読んでて、30年近く時は流れてるもののほぼ同じことが描かれてる(つまりほぼ何も世の中は変わってない)ことにショックやった。本やニュースで見聞きするトピックとしてだけでなく、公的機関や職場などパブリックな場所で所謂「制度」として男性家事/育児を当たり前にしていく動きは活発になってると感じてるものの、理想と現実のギャップはほぼ何も埋まってないことを知る(発言や動きすら認められなかった30年前よりは相対的に良い時代なんやとは心から思うけど)。
その現状を、くにさんという架空の方をケーススタディして説明されてる。プライバシーの問題はあるものの、個人的には実在の人物を描いてほしかったという思いが出てしまい、ちょっと入り込めきれなかったのが残念。けど信田さんがくにさんを通して、いい加減家族の在り方を変えていかねばというアラートを本書で上げ続けてる。危機感は十二分に感じられる価値ある本でした。
歴史とは価値の変遷も含んだ物語である。それは、異なる価値を体現する存在が共存できることを意味している。