『私的生活』 / 田辺聖子
★ × 92
内容(「BOOK」データベースより)
結婚→離婚。乃里子33歳。わたしの私的生活は、彼に侵されてしまった。「愛してる」よりも「もう愛してない」と告げることの、難しさ。田辺聖子「最高傑作」三部作復刊第2弾。
『ジョゼと虎と魚たち - bookworm's digest』以来2年ぶりの田辺聖子さん。
素敵な装丁に魅了されて即座に買いましたが、どうやら三部作の真ん中という、シリーズものの途中から読む荒業を犯していたようです、、
けどそんなこと一切気にならない、やっぱすんばらしい文章でサイコーでした!
主人公乃里子は、剛という旦那と結婚して3年経つ子供のいない夫婦。
2人は家でも外でもずーっと仲良しで、豪快な考え方で束縛するも魅力的な剛、そしてそんな剛に気を遣いながらもやっぱり彼が大好きな乃里子のイチャイチャ描写がほとんどです。
けれど本作のポイント、というか著者の小説をほとんど読んだことのない私が個人的に思ったポイントの1つ目は、そんな2人の描写が全くイヤらしくなく、微笑ましく、面白おかしく、読んでいるだけでニコニコ(ニヤニヤじゃないところが尚ポイント)してしまうこと。これは完全に田辺聖子さんの比類ない表現力そこ一点のみから来るものでしょう。
初版がなんとまあ昭和51年という、私が生まれる10年も前に出た小説からこんな瑞々しさを感じられるなんて幸せ、吉本ばななさんを初めて読んだ時もこんな感情でしたが、なかなか味わえないもんです。
キラーフレーズだらけで抽出しだすとキリがないので辞めときますが、今の恋愛小説で言われてることなどとうの昔に田辺さんが言ってたんだなぁと思わされる偉大さを感じました。
あともう1つのポイントは、これは本作がというより私個人的に女性作家が描くこれくらいの時代の小説を初めて読んだからなのですが、夫婦の関係が現代と異なる、それこそ亭主関白絶対王政、台所に男が立たない時代であるということ。
物語の終盤、乃里子は剛の過剰な束縛により気持ちを揺さぶられ、結果別の男性に恋をしてしまう。
そのことで2人の関係が急激にガタついてくるのですが(あ、けれど急激というよりはいつの間にかというニュアンス。このあたりの絶妙な変化が素晴らしいので是非読んでください。。)、
とにかく剛が乃里子に、現代だとそれだけで裁判起こされそうなくらい傍若無人な発言言動を繰り返すので、ゆとりですが何か世代である私にとって違和感ばかり。
けれど乃里子はそれが当たり前、剛が正しくて私が悪いのだと享受していて、時代の違いをビシビシ感じました。
このころの女性は乃里子にも剛にも共感しながら読んでいたのだと思うと、まあ現代の思想は悪くないなぁとジジ臭いことを思いました。
時代を跨いでも良いものは良いと訴えかけてくる小説、オススメです!