『腹をすかせた勇者ども』以来の金原ひとみさん最新小説。本作も前作同様、方向的にはポジティブめの作品で、登場人物みな痛快でユーモラスで疾走感抜群。けれど社会的メッセージや金原さんの哲学もしっかり埋め込まれた素晴らしい小説でした!
妙に目立ったのは登場人物たちの食事のシーン。どのシーンの過剰なまでに細部まで描かれており、特に小籠包を食う描写が上手すぎて、食いた過ぎて生協の冷凍小籠包ポチった程。食に関する描写って個人的には「生きる」というめちゃめちゃポジティブな印象をくらうので、主人公のマインドがそっちに向かっていくことを示してるようでそれだけで明るい気持ちになる。
後半は「不妊治療」が1つのテーマ。主人公は結婚/離婚歴があり、その原因が不妊治療による元夫との確執。ココは以前読んだ長嶋りかこさんの『色と形のずっと手前で』で謳われていたような社会システムのテーマに通ずる問題提起であり、今、当たり前のように自分たちが子どもを育ててるのって奇跡やなとつくづく思う。主人公一人称目線で見ると彼女の正義が全て正しいように見えるけど、じゃあもし夫目線で小説が描かれてた時、果たして彼女はどう描写されるのか。金原さん作品で親と子がテーマのものは結構あると思うし、多分金原さんの伝えたい思いって黒っぽいドロドロした感情もいっぱいあるやろけど、本作のようにぶっ飛んだ登場人物が痛快に生きてる世界の中でならその色もちょっと薄くなって伝わってくるからちゃんとエンタメとして成り立ってて素晴らしい。面白かったです!!
私のこの考えは、多様性という観点から見ると本当に最低の考え方です。私はここからここまでしか人間として認めない、と自分が神の視点に立って、普通と異常、OKとNGを定めているということですから。そんなの、狭量な人間の戯言でしかないんです。
多様性とかそういうのは、社会的な立場としては認めていきたいですが、自分の生活に於いてはおじさんも子供も自分的にアウトだから極力視界に入れたくない、という方向性です。
究極、自分以外の、いや自分自身もまた、よく分かんない他人、と片付けられれば、世の中の情念による犯罪は皆無になるだろう。でも自分が自分自身をよく分かんない他人、と片付けたら、じゃあ自分とはいったい誰で、誰が責任を取るんだということになるから、やっぱり自分のことはそれなりに傘下に置いた方がいいのかもしれない。