『違国日記』 / ヤマシタトモコ
友人にPUSHされたのち、隔週3冊単位ほどのペースで全11冊読み進め、映画化される次月を待たずして読了。賛否含め、いろいろ考えさせられた漫画でした!
両親を交通事故で亡くした15歳の朝を、死んだ母親の妹にあたる槙生が引き取り、2人の同居生活が始まるという物語。
あなたを愛せるかどうかはわからない。でもわたしは決してあなたを踏みにじらない。
槙生が放つこういった言葉に現れてるように、とにかくパンチラインの連打が続く「言葉」の作品。そこを際立たせるために、描き込みすぎておらず抜け感のある人物たちのタッチが重い言葉たちにスッと溶け込んでおり、大袈裟やけど「現段階の漫画における一つの到達点」みたいに思えた。
1, 2巻で特に心掴まれたのはやはり槙生。おそらく注意欠陥で発達障害である槙生が、人生において最も避けてきた人に対し愛情を持つという行為を、朝を引き取ることで否が応でも強いられるシチュエーションとなる。そこからの槙生は、変に肉親ぶるでもなくフィジカリーにでもなく、あくまで己のスタンスで「言葉」で朝と対話する。
本当にやりたいと思ったならどんなにつまんないことでもやりなさい。
誰のために何をしたって人の心も行動も決して動かせるものではないと思っておくといい。ほとんどの行動は実を結ばない、まして感謝も見返りもない。そうわかっていてなおすることが尊いんだとも思うよ。
ただここでどうしても気になる点が1つ、、、、
人への愛情や意思疎通にこれまで苦しんできたとされる槙生ですが、物語の中盤以降で、現代まで関係が続く学生時代の友人との戯れや、笠町くんというハイスペックな元恋人との、これまた現代まで続く関係性を知ったとき、
「なんか、めちゃめちゃ愛に溢れた、とても満たされた人なのでは、、?」
と思ってしまった。
もちろん、これだけの言葉の連打をライトに行う上では、ある程度キャラクターもライトに/愛され系に描かなくては重すぎる作品になってしまうというのは理解できるのですが、
ならば俺はいっそ小説という形態で、 もっととんがって、生き辛くて、息が詰まるような人物描写で言葉の連打を浴びたかったなぁ、、と感じてしまいました。
苦言失礼いたしました。
一方、サブキャラクターのキャラ立ちっぷりはホント見事の一言。特に好きなのは槙生の元恋人・笠町くんと朝の友人・エミリさん。
他にいくらでも「なっていい自分」はあったし、そんなチキンレースで自分の価値を試す必要なんてなかったのに。
もう絶対友達やめられないじゃん。
医学部不正入試問題、性的マイノリティ、発達障害、アダルトチルドレンと、
全11冊の中にこれでもかと、けれど決して無理のない設定やセリフで社会問題を提起し、そして同じく無理のない言葉で帰着させる。映画『怪物』を観た時も似たような印象やったけど、こういった作品がメインストリームで売れるというのは、特に若い世代にめちゃくちゃ大事なことやと思う。
最も重要な登場人物である槙生さんは映画では新垣結衣さんとのこと。個人的には『正欲』で新境地っぽい新垣さんを感じたし、予告を観る限り良い配役な気がするので、どこまで細かく描かれるか(個人的にはエミリの章は是非映画に含めてほしい、、)期待!