『腹を空かせた勇者ども』 / 金原ひとみ
『アンソーシャルディスタンス』以来の金原ひとみさん。著作を毎回追ってるワケではないが、「新境地!」と呼んで差し支えないような、初期綿矢りささん作品を彷彿とさせるような痛快な小説でした。
「新境地!」と感じたのは、これまでの著者の小説やエッセイ通り、世の中への疑問や怒りを母親という役を通してドロッドロに投げかけながらも、主人公レナレナがそれらドロドロの塊に対して更なる真っ直ぐな疑問を返してくるから、最終的に物語がポジティブな方向に進む点。疑問を呈する姿勢と読み手の気持ちよさ、小説ってそのいずれかに偏りがちやと思うけど、本作は見事にバランス取れてて「こんなこと出来るんか、、!」と驚いた。
人の親切とか正義感は、必ずしもいいものとは限らない、あるいは裏の意味がある、という意味っぽかった。どうして親切と思ったことを、正義感に感動したことを、疑わなきゃいけないんだろう。どうして親切にしたいとき、正義感に突き動かされるときに、深読みされるかもって心配しなきゃいけないんだろう。
あと中高生視点なので「えそれマジ?」的な若者言葉で文が進むが、お子さんがいるからか或いは金原さん自身のアンテナが優れてるからか、その崩し方もごく自然で気にせず読み進められた。一方で哲学書如く繰り出される母親からの論理も、こんな奴おらんやろと思いつつ魅力的なキャラで、その辺も無理のない小説という感じ。
レナレナのまっすぐな疑問や怒りに対する母親のアンサーは、変な話、将来ウェアラブルデバイスを通してやり取りされるであろう生成AIとの対話を想起させられた。曖昧な問いに対する理屈っぽい回答の感じが正にそれ。母親の言ってることは、もう至極正論でぐうの音も出ない。けど「人の心情なんてそう簡単に片付かないだろ!」と割り切らないレナレナの感情こそ大事にしたいと思えたし、そこは金原さん確信犯やと感じた。
あわよくば最後、もう少し母親の内面に焦点が当たってほしかった。何故母親がこういう思想で、そして何故実娘のレナレナが真逆の思想なのか、そのあたりほぼ明かされんまま(それも確信的やろけど)全て読み手に委ねる形で終わっちゃったので少し寂しかった。
けど素晴らしい作品、売れてる作家はやぱ違うぜ!