『生きてるだけで、愛。』 / 本谷有希子
★ × 90
内容(「BOOK」データベースより)
あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが…。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録。
本作を何故かずっと、飯島愛の自伝小説と勘違いしてたのですが笑、『乱暴と待機 - bookworm's digest』などで好きになった本谷有希子さんが著者だったことにようやく気付きました。
鬱で引きこもりで過眠症の女性が主人公という厨二設定ですが、相変わらず絶妙な文体で好きだなぁーと改めて感じました。
未読の方、タイトルはアレですが是非!
主人公・寧子は働きもせず、恋人である津奈木のヒモとして自堕落な毎日を送っており、
おまけに躁鬱状態であり、落ちている時はとことん理不尽な言動で津奈木に当たり散らかすという困ったさんです。
例えば私のあげた手袋をなぜはめていないのかと喚いたにも関わらず、いざ津奈木がはめると、なぜ室内で手袋をはめているのかと喚き散らす。
こんな女性、絶対イヤだ、、、笑
前半はとにかく寧子の狂った言動にムカムカしたりハラハラしたり、
「怖いもの見たさ」
でページをめくった印象でした。
話の毛色が変わる契機は、中盤に出てくる津奈木の元恋人。
働きもしない寧子に、さっさと津奈木と別れろというこれまた理不尽な態度で現れますが、
彼女の唯一の功績は、結果的に寧子を社会に出して働かせるようになったこと。
人と交わることで徐々に寧子の生活にも色がつき、読み手側としても安心していく、という展開になっていきます。
が、終盤で見事に裏切られるのがこの小説の素晴らしいところ、、
働くことで上手く回り始めたと思った歯車ですが、些細なきっかけでバイト仲間の車のボンネットで飛び回るなどの奇行に走り、寧子は職のない状態に戻ってしまいます。
『コンビニ人間 - bookworm's digest』にも近い印象を受けましたが、
「そう簡単に上手くいってたまりますか」という小説の方が私はすごくグッとくるんですよね、こう、なんでも理論武装して白黒つける風潮のニュースやドラマへの反骨精神みたいのが感じられて。
本作は短い分体力使わず、読んだ後にも考えさせる余裕なども残してくれるので、余計そう思うのかもしれませんが。